秋を憂い、青に惑う
おれたちは目で会話をしていた。
自分が何者か、見失いかけて壊れそうな時ほど片桐の瞳に自分を見つけていた。ひょっとすると彼女もそうだったのかもしれない、なんて、そんなのは到底お門違いでおれの勝手な妄想に過ぎないけれど。
出遭ってしまったとおれが感じたみたいに、彼女は感じているだろうか。彼女の中に、おれはちゃんといるのだろうか。
◆
「松山 桃です」
「…こんにちは」
青さんに逢いにわざわざ電車を乗り継いでいらっしゃったの、と言う言葉にソファに座って行儀よく俯いているのは、許嫁らしい。そんな存在がいることをやんわり聞いてはいたけれど、いざ目の当たりにしたのはその日が初めてだった。人類の9割に否定から入る母のお眼鏡に適ったその存在は、なんか、まぁ、可もなく不可もなく、といった感じだ。
元は京都にある有名な茶房の愛娘だかなんだかで、父と松山 桃の父に接点があり、この話が転がり込んだらしい。母も初めこそ猛反対していたそうだけどこの見た目でそれを覆す何かがあったってことだ。知らんけど。
元々他人にそこまで興味がないから、色白だなとか、童顔だな、ちびだな、とかその程度にしか思わない。これなら片桐の方がずっと、
ってなんでそこで片桐が出てくる。
「青さん、お部屋に案内して差し上げて」
「え、いいんですか」
「もちろんです。次期和泉酒造四代目の妻として亭主と親睦を深めることは大切ですから」