秋を憂い、青に惑う
「今更お前を他と並べろっていうの」
「またお前って言ったなおい」
「五十鈴」
そんなこと言ったらわたしもお前呼ばわりだぞ、と手を上げかけた時にその手首を掴まれた。
あわや畦道の溝に嵌りかけたわたしを救った和泉は、そのまま強く引いて自分の横に位置付ける。
街灯のない田舎の田圃道に、光みたいな羽虫が昇っていくのが見えた。
「お、う、ありがと」
「五十鈴、」
「…そんな何度も呼ばないでよ」
「カエルいた」
「うわあ!」
カエル踏みそうだったから助けただけだから、って笑う和泉の腕を叩く。それでバランスを崩して斜めになる背の高い身体も、わたしと笑うときだけ目尻につくる皺も、下から見上げた時の顎のラインも、本当はずっと大切だと思ってるんだよ、和泉。
◇
「工具屋になんの用事があるの」
昨日の夕方、学校終わり、家電量販店か工具屋でも行こうぜって意味のわからない誘いを受けた。
和泉、顔がいいから疎かになってんなら教えてあげる、同級生誘うのに工具屋と家電量販店は絶対避けたほうがいい。
「工具はいいぞ、なんか見てて楽しくなるだろ」
「ならないし、なんか独特の匂いして嫌」
中学の頃、たまの日曜に出かけるぞ! って意気込んだ父に連れてかれた家の近くのホームセンターでばったり同級生と遭遇した時なんて、思春期で敏感な頃の、それもイケてる男子集団に見つかったものだから本気で病んだのを覚えてる。
今じゃ苦い思い出だ。それを上から塗り替えるって。しかも曲がりなりにも酒造の跡取り息子という見目はいい男子高校生と二人って。黒歴史再びでしかないわ。