幽閉の鬼火〜榊第一高校生徒会の怪奇譚〜
「嵐役に拘ってる……?」


例えば、それが千尋さんだったとして。


千尋さんはずっとヒロインを務めてきた。


だけど嵐役を巡って諍いがあって、最後の舞台は出られなくて。


おまけにその諍いが千尋さんを責める要素になって、千尋さんは自殺してしまう。


「……繋がっちゃった。あたしって天才かも」


千尋さんが嵐役に強い未練があるなら、嵐役の人間に危害を加えるのも、理解は出来ないけど納得出来る。


嵐役っていうのがヒロインで、千尋さんが出られなかった最後の舞台が『青嵐』なら、だけど。


「あとはなんで26年も前のことを蒸し返してるかだよね」


岩橋さんは『青嵐』が毎年公演される演目だと言っていた。


千尋さんが亡くなってから、何度も公演されているはずだし、その間もポルターガイストが起こっていなければ辻褄が合わない。


あたしはうーん、と伸びをして後ろに寝転ぶ。


「……ぇ?」


体が瞬間的に硬直した。


白い顔が、あたしを覗き込んでいたのだ。


女はここの制服を身につけていなくて、一昔前の凝ったワンピースに身を包んでいる。


逃げなきゃ、と思うのに、体は金縛りにあったみたいに、指1本も動かない。


蒸し蒸しと暑いはずなのに、体温がぐんと下がって、歯がカチカチと音を立てた。


長い黒髪のせいで光ってすら見える白い顔が、微笑さえも浮かべてゆっくりとあたしに近づいてくる。


「やだ、やだやだや」


「びっくりした?」


「…………へ?」


女は霊にしては似合わない、可愛らしい笑顔で小首を傾げた。
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