幽閉の鬼火〜榊第一高校生徒会の怪奇譚〜
やっぱり、『青嵐』のヒロインは嵐なんだ。


そうなると、どうしても千尋さんの線が濃くなってしまう。


「なんだかなぁ……」


「どうしたの?」


「へ!?あ、や、なんでもないです、ほんとに」


舞台上からかけられた声に、あたしは慌てふためく。


今あたし声に出してた?


なんであたしってばこんなに独り言が大きいかな。


「そ、そう言えば、日菜子先輩は怖くないんですか?呪い」


誤魔化すように、あたしは勢いで口を開く。


みんな怖がって解散した後はすぐに帰ったのに、日菜子さんは自主練するつもりだったんだよね?


あたし部外者だけど、ひとりでいるの割と怖かったし、日菜子先輩は平気なんだろうか。


「怖くないわけじゃないけど……。私5月に転校してきたばかりの新参者だから、努力は人一倍しなきゃいけないと思うの」


日菜子先輩は少し寂しそうな笑みを浮かべる。


そっかぁ。


転校してきてすぐにヒロインに抜擢なんて、それだけでもすごいのに、日菜子先輩は努力家なんだ。


おしとやかだし、藤原あたりには「お前とは正反対」って言われそう。


「あ、じゃああたし練習の邪魔ですよね」


「そんなこともないけれど……」


「いえいえ、貴重な時間にあたしが煩くしてたら集中できないと思うんで」


「生徒会のお仕事もあるものね」


「いやぁ、まぁ」


そこはごにょごにょ、あたしは日菜子先輩に鍵を渡して、ありがとうございました、と頭を下げる。


その時目に入ったワンビースの裾に、あたしは思わずあれ、と首を傾げた。


「何かあった?」


「いえ、ワンピースの裾ちょっと長いんじゃないかなって」


日菜子さんに合わせて仕立て治す前なら、日菜子さんがわざわざ着る必要はない。


でも、治したにしては裾が地面を摩っていた。


あぁ、と日菜子先輩は足元に目を向ける。


「これは元々、ひかりちゃんが着る予定だったから……」


そう言った日菜子先輩は、何故かものすごく思い詰めたような表情をしていた。
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