幽閉の鬼火〜榊第一高校生徒会の怪奇譚〜
ゾクリ。


背筋を駆け上がった悪寒に足がピタリと止まる。


……見られてる。


誰に?


白川先輩も美保さんも藤原も、みんなあたしの前にいる。


後ろに人なんているはずないのに。


誰もいないことを知っているのに、振り返れない。


誰かの視線があたしの背中に刺さって、そこがちりちりと痛むようだった。


舐めるような視線というのはこういうことを言うのかもしれない。


“何か”が注意深く、あたしの行動を伺っている。


強ばった体はその場に縫い付けられて、あたしは目を見開いたまま浅い呼吸を繰り返した。


「はるちゃん?」


先を歩いていた美保さんが訝しげにあたしを振り返った。


顎の先を伝った汗が、コンクリートの床に染みを作る。


「……や、」


淀んだ空気がねっとりと体に絡みついて、あたしは小さく悲鳴を漏らした。


その声に藤原と白川先輩も足を止めてあたしを振り返る。


『……た……をか……して……』


耳元に微かな、女の声。


途端に左腕を強く引かれる。


「や、だっ!」


あの部室は嫌だ!


あそこには戻りたくない!


あたしは足を踏ん張って、懸命に抵抗する。


それでも“何か”は、恐ろしいほどの力で私を部室に引きずり込もうとする。


「金森!」


藤原が怒鳴る。


あたしは右手を藤原に伸ばして、藤原がそれを掴んだ。


視界の端を白い何かが舞って、同時に左腕を引っ張る力が一瞬緩む。


それを逃さず、藤原はあたしの腕を思い切り引っ張った。
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