幽閉の鬼火〜榊第一高校生徒会の怪奇譚〜
「日菜子、嵐役全然引く気ないみたいだね」


日菜子って、あの日菜子先輩?


あたしは思わず目の前の教室に滑り込んで屈み、聞き耳を立てる。


明らかに悪意を含んだ同調の声は、教室にいるあたしの耳にも届いてくる。


「確かに芝居は上手いけど、ちょっと空気読んだら?って感じだよね。ひかりが可哀想」


「顔が綺麗だから調子乗ってるんじゃないの?」


「えー、私はあの顔嫌い。絶対私たちのこと馬鹿にしてるよ」


ね、とお互いがお互いに同調し合う。


3人はあたしには気がついていない様子で、バルコニーの手すりに凭れながら日菜子先輩の悪口を続ける。


なんだろう、すごく胸糞が悪い。


ひかりさんが日菜子先輩に腹を立てるのは分かるけど、他の人が日菜子先輩を責めるのはお門違いだと思う。


最終的な決定は顧問の先生で、岩橋さんが言っていたように、それがベストの舞台だったんだから。


ひかりさんを応援したかった気持ちも分かるけど、だからといって日菜子先輩を当てこすっていい理由にはならない。


それに、日菜子先輩が1人で自主練していた姿を思うと、今すぐ出ていって反論したい気分になった。


でも、それこそあたしは演劇部の事情を深く知らないからお門違いで、あたしは黙って唇を引き結ぶ。
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