幽閉の鬼火〜榊第一高校生徒会の怪奇譚〜
「あたしのことはいいんです。ほら、頑丈だし。それより、演劇部で変わったことはありませんか?」


「……前より衣装や道具が消える頻度が増えたかな。部員たちももっとピリピリしてきてる」


「大切なものですしね。精神力も削られるでしょうし……」


溜息を吐く美保さんに、岩橋さんは「それもあるけど」と言葉を続けた。


「元々ひかりと日菜子の件でゴタゴタしてたんだ。それが収まらなくて」


「……6月にいざこざがあったって聞きました」


正確には盗み聞きした、だけど。


「今、部活が日奈子派とひかり派で別れちゃってるの。いい舞台を創りたいっていうのは皆同じはずなのに」


生徒会の子にこんな話してもしょうがないよね、と岩橋さんは寂しそうに笑う。


岩橋さんは日菜子先輩派でもひかりさん派でも、どちらでもないようだった。


だからこそ、部長としての責任もあって余計に心苦しいんだろう。


生徒会室がしんみりし始めた時、ダンッとドアが激しく鳴った。


「なに……?」


美保さんが腰を浮かす。


磨りガラスになった小窓には黒い影が映り、左右にゆらゆらと揺れた。


ドアはなおも酷い音を鳴らす。


“何か”がここまで来たんだろうか。


でもそんな、まさか生徒会室にまで来るはずなんてないじゃない。


そうだ、何かの勘違いだ。


あたしは左腕の包帯に触れ、自分に言い聞かせる。


怯える岩橋さんを背に庇い、白川先輩がゆっくりとドアに近づいた。


空気が張りつめる中で、白川先輩の指先が引手に触れた時────
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