幽閉の鬼火〜榊第一高校生徒会の怪奇譚〜
藤原の話は的確で、感情の色付けがされていなかったから、余計に胸に深く迫った。


2人とも、亡くなっていた。


その事実が、あたしたちの口を閉ざしてしまう。


だから、部室の落書きには千尋さんの名前ものどかさんの名前もなかったんだ。


もしかしてあの黒カビは、本当にのどかさんの血だったのかも、と考えて、無駄な推測だと自嘲した。


のどかさんや千尋さんを冒涜するような感じがしたからだ。


夢を追う途中、不慮の事故で未来を絶たれたのどかさん。


夢を失い、身に覚えのない罪で責められ、その果てに命を絶った千尋さん。


ふと、引っ掛かりを覚えて、あたしは藤原の言葉を反芻する。


のどかさんが事故で亡くなって、それで千尋さんの風当たりがきつくなって。


「日菜子先輩も、怪我したって言ってた……」


「なに?」


「日菜子先輩、6月に怪我して、それでひかりさんは細工したんらじゃないかって疑われて……っ、それが引き金だったんだ!」


想いは想いを呼ぶ。


ひかりさんの苦しみが、千尋さんの深い傷と共鳴して、それが溢れ出した時、その呪いは生まれた。


悲しい色をした、26年前の記憶。


「千尋さんは、ずっとそこに囚われたまま……」


忘れることもままならず、夢を追うことも叶わず。


ただ、嵐役を返して欲しいと嘆く。


死してなお、叫び続けるのだ。


確かに千尋さんはポルターガイストを起こしているのかもしれない。


それでも、心のしこりになった想いを晴らしてあげたい。


ずっと抱えているのは、きっと苦しいから。


何ができるだろう。


あたしたちは千尋さんに何をしてあげられるだろう。


もう二度と、演劇部が悲劇に包まれないように。


誰かの涙が、流れないように。
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