幽閉の鬼火〜榊第一高校生徒会の怪奇譚〜
物語は粛々と進められていった。


懸念していた事故やポルターガイストは起こらず、演者たちの声や物音が振動となって伝わって来るだけだった。


舞台には静寂が舞い降りる。


嵐の独白のシーンが徐々に多くなり、照明と音響だけが舞台に取り残された。


誰も居ない舞台というのはとても寂しくて、あたしは体育座りをして折り畳んでいた足を、ぎゅっと体の方へ引き寄せた。


お客さんを入れてあげたかった、と思う。


ちゃんとした舞台をさせてあげられたら、とも思う。


でも、時間を巻き戻さない限り、それは出来ないから。


あたしたちは魔法使いなんかじゃないから。


だから、みんなが千尋さんの演じる嵐だけを想って、一瞬一瞬を見守った。


音楽がピアノの音に切り替わり、上方から当てられる白銀のスポットライトだけが、舞台の一点を照らす。


嵐が自ら命を絶つシーンだ。


本当の公演はまだ先だったから背景が間に合わなくて、後ろの暗幕が小さな埃を雪のように輝かせた。


物語は終盤だ。


ここで佳境を迎えて、クライマックスに突入する。


体育館の出入口の隙間から吹いたぬるい風が、暗幕を微かに揺らして────


次の瞬間、全員が息を呑んだ。
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