幽閉の鬼火〜榊第一高校生徒会の怪奇譚〜
「千尋さん……」


光を受け、淡く輝く細い四肢。


ブルーのワンピースは白い肌を一層際立たたせ、儚げな彼女の姿を彩る。


千尋さんが、そこにいた。


幻覚かとあたしは周りを見渡すけど、誰一人として平静な顔をしている人はいなかった。


千尋さんはに鈍く光るナイフを握り締めて、ゆっくり首元に充てがう。


『……あぁ、幸せだわ』


柔らかな表情の中に涙が光り、千尋さんは舞台上に崩れ落ちた。


いや、正確には崩れ落ちる瞬間、空気に溶けるみたいに消えてしまった。


その一瞬、体育館の時間が止まった。


あたしは胸がいっぱいになって、目の奥が燃えるように熱くなるのを感じた。


幸せだと、千尋さんは言った。


それが嵐の台詞だったとしても、千尋さんはようやく解放されたんだ。


泣きながら笑った千尋さんは、嘘偽りなく幸せそうで、体育館に温もりが灯ったようだった。


これで、演劇部にも笑顔が戻る。


あたしたちのしたことは無駄なんかじゃなかった。


それがあたしをひどく安堵させて、物語が終わるまで、あたしは涙が止まらなかった。


そのあとの舞台は圧巻で、嵐の死を知った青が、死んでまでも嵐を利用しようとする人々に、『もう楽にしてあげたい』と涙を零し、嵐と出会った丘に亡骸を埋めると、体育館にも鼻をすする音が響いた。


丘には青嵐が吹き、最後のスポットライトが消える。


体育館は拍手の音で満たされ、カーテンコールに出てきたキャストは晴れやかな笑顔で一礼した。


こうして、千尋さんの追悼公演は幕を閉じた。
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