幽閉の鬼火〜榊第一高校生徒会の怪奇譚〜
あたしの横を横切る影があった。


つられて顔を上げると、ひかりさんが火柱に向かって、よろめきながら足を進めていた。


「ひかり先輩!危ないです、戻ってください!」


「美保、大丈夫だから」


ひかりさんは真っ直ぐに進む。


そして、火柱の前まで来ると、静かに口を開いた。


「持って行ってもいいよ」


ただ、一言だけ。


決して大きくはない声だったのに、あたしの耳にも届いたその声は、温かい響きをしていた。


「持って行っても構わない。私は今の演劇部の事情をよく知らないけど、あなたは自分の作った衣装を返して欲しいんでしょ」


炎が大きく歪む。


紅蓮の手がひかりさんに手を伸ばしても、ひかりさんはその場を動かなかった。


でも、とひかりさんは言葉を続ける。


「燃やしてしまわないのは、燃やすことができないのは、この衣装が『青嵐』に必要なものだと分かってるから。憎しみを持ったあなたの中にも、舞台を1番いいものにしたいっていう気持ちが残ってるから。違う?」


ひかりさんの声に反応するように、宙を飛ぶ小物たちが床に落ち、床は鳴りを潜めた。


火柱の中の衣装は形を崩すことなく、まるで炎が衣装を守っているみたいだった。


火は迷ったようにゆらりゆらりと揺れる。


届いてるんだ、ひかりさんの声が、のどかさんに。


あたしたちは固唾を呑んで、ひかりさんの後ろ姿を見守る。


「私も同じだから。素直になれないだけなの。日菜子にも本当はごめんって謝りたい」


ひかりさんの肩が微かに揺れていた。


あたしはその背中を見つけて、どうしようもなく泣きそうになった。
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