不器用な気持ちの育て方

「じゃ、私先に帰るから」

「うん。お疲れ」

たったそれだけの会話でこの関係が進まずに終わることを実感する。
丹羽くんに背を向けてドアを開けようとしたとき、丹羽くんのスマートフォンが鳴った。

「もしもし……ああ、今日はどうも……」

もしかしてインターンの子? 本当に連絡してくるなんて何考えてるの。大問題じゃん……。

「ああ、じゃあ今度会おうか」

私は頭にきた。こんなこと会社にバレたら丹羽くんの立場がない。
ダンダンと足音高く近付くと、丹羽くんの手からスマートフォンを取り上げた。

「おい!」

文句を無視して通話を勝手に切ると丹羽くんの座るイスをくるりと回し、背もたれに思いきり手をつく。イス全体が押されて机とぶつかり大きな音がした。

「びっ、くりしたー……お前何してんの?」

丹羽くんは目を真ん丸にして私を見る。私は屈んだたま丹羽くんを睨みつける。

「不愉快なんだけど」

「はぁ?」

「丹羽くんの態度が。学生と電話するなんて、ばっかじゃないの?」

「………」

「愛想振り撒いてるのは丹羽くんの方じゃん!」

私は座る丹羽くんを見下ろして前屈みになったまま怒鳴る。

「なぁお前……もしかして妬いてる?」

「なっ……」

「今の電話誰からだと思ってんの?」

「女子大生?」

「ちげーよ横山だよ」

「横山くん?」

それはもう一人の同期だ。

「今出張行ってんだろ? その時資料の撮影をお願いしたんだよ。その電話」

「………」

勘違いに恥ずかしくなって背もたれに手をついて屈んだまま固まった。顔が赤くなるのが自分でもわかる。
丹羽くんは私の頭の後ろに手をやり、顔を引き寄せそのままキスをした。

「俺はお前しか見てねーよ。お前も、俺だけ見てればいいんだよ」

「っ……」

「返事は?」

「はい……」

その瞬間再び唇が重なる。
丹羽くんのスマートフォンが鳴っても出ようとしない。きっと横山くんだ。でも私たちは唇が痺れるまで誰もいないオフィスで、長い間深いキスをしていた。



END
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