交錯白黒
母は私の自殺未遂騒動からかなり人が変わった。
荒んだ雰囲気が徐々に丸みを帯びて頬にも薄紅が差すようにもなり、健康的だ。
どこが母のスイッチだったのかはわからないが、明るくなったのならよしとしよう。
「どうしたの?ここまで来て……」
濃く縁取られた睫毛がバサバサ羽ばたいて本物の睫毛がどれかが見きれない。
「私の小さい頃の写真って、持ってる?」
「は?」
「あ、いや、宿題で必要なの」
咄嗟のでまかせだが、これで通じるだろう。
有ればそれでいいのだがこれで母が無いと主張したら、痕跡が残るのは黙認のうえで母の部屋に忍び込まなければならない。
何度かしているとはいえ、やはり後ろめたい気持ちにはなるのだ。
「そーね……」
母は大量の紙を手にしたままどこか遠くを見つめるように目を細めた。
その紙は患者さんのカルテだろうか。
「また探しておくわ」
曖昧な返答。
これは、真実なのか。
「あ、あともう一個」
「何?」
「この男の子、誰?」
遥斗から拝借したあの写真である。
「んー……もうちょっとよく見せて」
母は紙の山を机に置くと私に近づき、その写真を凝視した。
くりっとした大きな目に青白いといっても過言ではない肌。
艶が光る黒髪が魅力的だった。
母が空気を切るように息を吸った。
「……あなた、もしかして琥珀くんの家に行ったの」
「え?」
確かに、母にそのようなことを連絡しなかったが、何故今気付いたのだろう。
橘くんの名前が出たことはともかく。
「勉強教えてもらってる」
「それは、今日だけ?」
母の言葉のニュアンスには、嗜めるような含みがあることを不可解に思う。
「ほぼ毎日……」
「今すぐやめて」
ピンと張った弓をいきなり断ったような強い声だった。
それに反し、顔には怯えの色が潜んでいる。
「どうして?」
「……あの家は……異常者の集まりだから」