交錯白黒
ドンと胸に重みがぶつかった。
衝撃が重くて、すぐに体制を整えられない。
……異常者って、そんな言い方。
見直したはずの母の像がバラバラと崩れていくようだった
「……何、それ」
「今後一切、関わらないで」
その決めつけた言い方に、私の怒りのスイッチが押された。
橘くんの家は、異常なんかじゃない。
瑠璃さんは、子供っぽくて、大人になるときもあって、浮遊感があるから、放っておけない人。
橘くんだって……怖いし、まだ、あのことは許してないけど、悪い人じゃない。
彼の優しさを、この前、少しだけ知った。
二人ともそれぞれタイプが違って、変わっているところもあるけど、まるで悪いことをした人達みたいな扱いを受けるような人じゃない。
「それは私が決めること。大体何?異常者の集まりなんて。私が見てきた橘家は関わりを絶たないといけないような人達じゃない」
「でも……」
母は青くなった唇を隠すように舐め、低い声で絞り出すような声を出す。
母の、それこそ異常なまでの躊躇いようから、あることを思い出した。
「お父様の罪のこと?」
母ははっと大きく目を見開き、その瞳孔を激しく揺らした。
……知ってるんだ。
母は医者だから、橘くんのお父様のことを知っている可能性は、ある。
それに、橘くんが母に診てもらっているこから、その確率は格段に上がるであろう。
この反応は、何か知ってる。
「教えて」
「知らないわ。罪って何の」
母は平静を装っているが、一度青く染めた唇は中々血色が戻らない。
「隠しても無駄。私、大枠は知ってるんだから」
大口を叩いてみるが、真っ赤な嘘なので殆ど博打みたいなものである。
うまくいけば、橘くんと罪との関係性も見つけられるかもしれない。
「言ってみなさいよ」
やはり、そうくるか。
こうなったら、一か八かだ。
「それは――」
「櫻子さん」
ドアの開く音も聞こえないくらい静かに、水城さんはそこに佇んでいた。
「患者様がお呼びです」
頬を殆ど動かさず、唇だけで会話しているような無機質さに、間が悪い、と怒りが溜まる。
「じゃあ、そういうことだから」
「待って!話はまだ」
「天藍さん。これは仕事です。櫻子さんの邪魔はしないように」
普段は糸目で見えない黒目が、このときは少し見えた気がした。
「言いつけ、守ってよね」
母の言葉が、また母娘の距離を遠くさせた。