交錯白黒
「うーん……」
つい、勢いでりょーかい!などと呑気に答えてしまったが、父の周囲の人間が容易に見つからない。
研究者だから引きこもってきっと顕微鏡でも食い入るように見つめているからだ。
周囲の人間って誰がいる、という第一歩で躓いてしまった。
それは、父が孤立していることの表しでもあり、少し悲しくもなったが、あの性格だ。
人が離れていくのも仕方がないだろう。
僕も幼少期、何が何だかわからないまま医学知識を叩き込まれた。
稀にボランティア活動もしている。
もちろん、医師免許は持っていないので専門的なことは一切していないが。
成長して、父のことを知って、僕は絶望して、医学との関わりを断った。
父は、僕に跡を継がせようとしていた。
あの、仕事を。
僕等に共通して受け継がれていくのは、この黒髪。
自分で言うのもだが、艶があり、とても質がいい、綺麗な黒髪だ。
「あーー!」
その黒髪をかき乱し、畳の上に倒れ込んだ。
そもそも、父の周囲の人間から証拠を集めなくとも、父の罪を立証できる証拠があるのだ。
それを公表するかは、琥珀次第なので、僕はとやかく言えない。
こんな無駄なことはやめだ、僕が惨めになっていくだけ。
ここは琥珀と天藍ちゃんに任せ、僕は父の部屋にでも忍び込んで何か証拠になりそうなものを探すとしよう。