交錯白黒
「天藍姉!天藍姉!」
ドタドタと大きな足音と声を出しながら、遥斗が私の部屋へ突入してきた。
私は持っていた写真の額を急いで伏せる。
「何?うるさいよ」
「母さんの浮気のこと、覚えてる!?」
鼻息荒くまくしたてる様子に、遥斗もこんな人間味のある、熱い表情になるんだな、とほっこりした気持ちになった。
多少圧が凄くて引いてしまう程ではあるが。
「まあ、うっすらとは」
正直、すっかり忘れていた。
橘くんや瑠璃さん、千稲ちゃんのことがありそれどころではなく、母の動向にまで気を配る余裕などなかった。
「俺、浮気相手、わかったかも」
「へー、誰?」
私ははなから興味が無かったので、近くに置いていたペンを拾い、くるりと一回転させた。
「水城さん」
「はあああああ!?」
思わずペンと額を放り出し、叫んでしまう。
「え、あの、水城さんって、水城令?お母さんの秘書さんの?」
「うん」
「で、でもこの前の遥斗の話じゃ、相手は既婚者なんだよね?水城さん結婚されてるの?」
「そこまで詳しくはわからないけど……」
欧風の、丸く、大きな瞳が揺らめいた。
「そう考えられる根拠があるってわけね」
「うん。実は……」
……俺、昼間、母さんに電話したんだよ。
そしたら、通話が切れてなかったみたいで、さっきまでずーっと電話が繋がってたんだ。
それに気づいたとき、通話口から流れたのが母さんと水城さんの声だったんだ。
その時点では、何を言っているか気にしていなかった。
で、切ろうとしたんだけど……。
「大切なお話があります。今夜、院長室で待っていてください……そう言ったんだ、水城さんが」
やけに神妙な面持ちで言葉を紡ぐので、同学年を相手にしているような気がした。
遥斗はやっぱり、達観しているのだ。
「この前も言ったけど、それだけで決定はできない。違う用事の可能性だってあるでしょ」
「何で天藍姉は人の話を最後まで聞けないかな〜。瑠璃兄の相手してる気分だぜ」
大袈裟なまでのため息に、瑠璃さんと私は違うでしょ、と少しムッとした。
「続きがあるんだ。もしかして再婚の話?何度も言ってるけど、私はもう……て、いうところで向こうの携帯の充電が切れたみたい。な?これならどう?」
「確かにそれなら……」