交錯白黒

「天藍姉!天藍姉!」

ドタドタと大きな足音と声を出しながら、遥斗が私の部屋へ突入してきた。 

私は持っていた写真の額を急いで伏せる。 

「何?うるさいよ」

「母さんの浮気のこと、覚えてる!?」

鼻息荒くまくしたてる様子に、遥斗もこんな人間味のある、熱い表情になるんだな、とほっこりした気持ちになった。

多少圧が凄くて引いてしまう程ではあるが。

「まあ、うっすらとは」

正直、すっかり忘れていた。

橘くんや瑠璃さん、千稲ちゃんのことがありそれどころではなく、母の動向にまで気を配る余裕などなかった。

「俺、浮気相手、わかったかも」

「へー、誰?」

私ははなから興味が無かったので、近くに置いていたペンを拾い、くるりと一回転させた。

「水城さん」

「はあああああ!?」

思わずペンと額を放り出し、叫んでしまう。

「え、あの、水城さんって、水城(れい)?お母さんの秘書さんの?」

「うん」

「で、でもこの前の遥斗の話じゃ、相手は既婚者なんだよね?水城さん結婚されてるの?」

「そこまで詳しくはわからないけど……」

欧風の、丸く、大きな瞳が揺らめいた。
 
「そう考えられる根拠があるってわけね」

「うん。実は……」

……俺、昼間、母さんに電話したんだよ。

そしたら、通話が切れてなかったみたいで、さっきまでずーっと電話が繋がってたんだ。

それに気づいたとき、通話口から流れたのが母さんと水城さんの声だったんだ。

その時点では、何を言っているか気にしていなかった。

で、切ろうとしたんだけど……。

「大切なお話があります。今夜、院長室で待っていてください……そう言ったんだ、水城さんが」

やけに神妙な面持ちで言葉を紡ぐので、同学年を相手にしているような気がした。

遥斗はやっぱり、達観しているのだ。

「この前も言ったけど、それだけで決定はできない。違う用事の可能性だってあるでしょ」

「何で天藍姉は人の話を最後まで聞けないかな〜。瑠璃兄の相手してる気分だぜ」

大袈裟なまでのため息に、瑠璃さんと私は違うでしょ、と少しムッとした。

「続きがあるんだ。もしかして再婚の話?何度も言ってるけど、私はもう……て、いうところで向こうの携帯の充電が切れたみたい。な?これならどう?」

「確かにそれなら……」
< 106 / 299 >

この作品をシェア

pagetop