交錯白黒
「でも、水城さんが既婚者っていう証拠は?」
「ない」
「まぁ、そうよね……。なら、お幸せにってことでいいんじゃない?」
私が半笑いでそう答えると、まん丸な目を上目で遣い、私の服の裾を両手で掴んでいかにもカワイイキャラで訴えてきた。
「でも!可能性があるんだぜ?今までお世話になった親だから、道に外れたことはしてほしくない」
あざといけど、我が弟ながら可愛い。
か弱そうな色素の薄い茶色の瞳が、本質であるクールさを隠し、女子の母性本能を刺激しているのだと思う。
こういうところが、罪なのだ。
「あんたねぇ、カワイコぶっても私には通用しないのよ」
実際はかなり効いているが。
すると遥斗はきゅるきゅるした雰囲気を仏のようにすっと消し、本質を露わにした。
「なーんだ。琥珀兄でも落とせたなら俺もいけると思ったのに」
「え、な……?落とされた?私が?橘くんに?何言ってんの」
「という訳だからさ、水城さんが結婚してるかどうか、確かめろよ」
無視。
「って、何で私?遥斗がすればいいじゃない。私、忙しいんだけど」
橘くんの調査もあるのだ、そんな小さなことにかまけていられない。
「そんなもん観察するだけでできる。俺もするから、天藍姉もよろしくな」
ニコッと笑うと色素の薄い、丸い瞳が細くなり集まっていた輝きが真っ直ぐに放たれる。
これで英語が流暢に話せたらハーフと勘違いされるだろうな、と思った。
「あっ……ちょ、待ちなさ……」
私の抵抗の声は、ドアが閉まる音に上書きされた。
落ちていた額に写っている女が、優しく微笑んでいた。