交錯白黒
すっかり目に馴染んだ襖をゆっくり開くと、そこにはいつもの二人がいた。
「おー、やほやほ。今日は勉強中断!調査の結果報告しよー」
おー!、と小学生の運動会ばりに気合の入っている瑠璃さんに橘くんと二人で冷めた視線を送る。
「はいはーい、まず僕からいくね」
鈍い。
「僕は、そもそも親父の知り合いが見つからなくて、琥珀の調査に加勢したよ」
「見つからないって、そんなことありますか」
「うん。親父研究者でずっと部屋に閉じこもっているから、親戚関係も連絡先がわからなくて、デッドロック状態」
じゃあなぜ、母は橘くんのお父様のことを知っていたのだ?
「という訳なので、琥珀と一緒に親父の部屋に侵入」
「おい、それを言うんじゃねぇっ」
焦ったような声を出したのは橘くん。
珍しく取り乱していて、子供のような表情になった橘くんが可笑しくて、笑ってしまった。
「何笑ってんだよ」
「ごめん」
少し赤くなって睨む様子も、全く恐怖は感じず、笑いを増幅させただけだった。
「んー、やっぱりさ、天藍ちゃん前髪切りなよ」
……なぜこのタイミングで?
「就活まで切らないって決めてるんで」
「何だそれ」
「変?」
「変」
「僕は切ってほしいなー」
「それはわかりましたって!」
とにかく、前髪はいいんで調査報告しましょうよ、と私が仕切り直して橘くんが口を開いた。
「俺は、親父の部屋に侵入して、証拠を探した。だけど、あるのは誰のかもわからない何かの検査結果の紙ばかりで、特に証拠になりそうなものはなかった」
「その紙は証拠にならないの?」
「ああ。断片的なものだったからな」
「それと、コンピュータの中も見ようとしたが、一個のファイルにロックがかかっててた。きっとそこに証拠があるんだろ。パスワードを試して間違えると凍結される恐れがあったから、その日はコンピュータを開いて終わった」
「コンピュータを立ち上げるときのパスワードは何で知ってたの?」
「パスワードなんて凝ってるやつ、早々いねぇんだ。自分の誕生日か、身内の誕生日、もしくは1234とか、1111とか単純なやつばっかなんだよ」
「へぇー……」