交錯白黒
「散らかっててごめん」
お盆にのった麦茶を、それぞれの前に置いた。
橘くんの家にはお父様がいる可能性があったため、うちに来てもらったのだ。
自転車は、三人乗りで橘くんに漕がせて。
もう道路交通法とか言っているような乗り方ではなかった。
リビングには青を基調し、白の幾何学模様の入った絨毯が敷かれ、レース模様をあしらったカーテンが風で踊り、花瓶には花なんかも挿されていた。
一時期は、綺麗なようで空っぽである、白一色で室内が染められていた記憶がある。
いつの間にかこんなに色づいていた。
母の心情が表れているようなこの洋館を、嫌いだった洋館を、もっと知って見てもいいかな、という気持ちが湧いた。
木目の入った焦げ茶の椅子を引き、二人の真正面に座る。
カーテンが何かを予言するように激しく舞った。
「如月」
橘くんの声が無理に明るくしようとして、喉が締まったようにひきつっていた。
一度咳払いをして、もう一度口を開く。
「お前、俺の親父の職業、知ってるよな」
コクリと小さく頷いた。
言葉を発すれば、内に潜む化け物のような感情が出てきそうだったから。
赦してはならない。
秘密はばらせない。
橘くんは無関係。
今まで我慢してきた。
私は知っている。
だめ。
だめ。
「俺はさ」
母音が歪んだ。
ガタ、と何かが激しくぶつかり合う音がしたかと思うと、目の前には瑠璃さんがいなかった。
そして背後で、ドアが大きな音を立てて閉まるのを聞く。
橘くんは笑っていた。
傷を隠すように。
「俺は」
「クローンなんだ」