交錯白黒
こんなこと、最初から気づけた筈だろうに、俺は怒りで視野が狭くなっていたのだ。
自分の恨みや怒りの矛先を、どうしても他人に向けたくて勝手に悪人像を生み出していただけだ。
確かに、俺や瑠璃は関わり無く育てられたが、それだけで邪悪な考えを持つ人間だとは判断しかねる。
「おい。何してる」
どくん。
喉がひび割れているかのような、ガラガラとした特徴的な声。
思考の途中だったこともあり、手から力が抜け、ピッキング道具を落とした。
カチャーン
父子の間の静寂に、金属音が響いた。
「やはりお前だったのか。誰に教わったんだ、こんなこと」
何故親父がここに。
侵入したのが俺だと予想できたのは何故だ。
気配を感じなかった。
いつの間に俺の背後にいたのだ。
冷徹。
罪人。
違う。
違わない。
憎い。
俺の人生めちゃくちゃにしておきながら、石のように動じないその表情が癪だ。
巻き込まれただけだろうが何だろうが、俺を作ったのはコイツで間違いないのだ。
境遇なんて知るか。
世間が注目するのは、無関係な人間がいつも見るのは過程じゃない。
結果だ。
過程がどんなに善良で、純白で、努力に満ちあふれていても、結果が泥水ならば濁っていると見られるのだ。
だから、俺がコイツに持つ怒りは不当じゃない。
不当じゃない。
不当じゃない。
……落ち着け、俺。
果たして、正当か。
「二度と入るなよ。さっさと自分の部屋へ帰れ」
俺は一度深呼吸した。
「……デザイナーベビー」
親父は、ドアノブにかけようとしていた手を大きく一度震わせた。
矢で仕留められたように動かない。
……まさか、ビンゴなのか。
「俺以外に実験で生み出した人間がいるだろ」
「……」