交錯白黒
どくどくと心臓の鼓動が速く、額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
遥斗の鋭さには舌を巻く。
少しでも隙を見せようものなら、獲物を穿つ銃弾の如く、物凄い素早さで突いてくる。
全く、誰に似たのやら。
遥斗と私は、見た目が似ていないのは当然だが、性格は少し似ていると言われる。
私自身はそうも思わないのだが、それが、私の人間味のない部分でないことを祈るばかりである。
「天藍ー」
「わっ」
甘えたような声が病室中に響き渡る。
「ちょっと、ノックしてよ」
「あ、してない?」
うちの母親は抜けてるのか、抜けてないのか……よくわからない性格をしている。
以前は冷酷で仕事至上主義、ロボットのようなイメージを抱いていたが、今はそうでもない。
あの写真を見せてから、なんとなく気まずい雰囲気が続いていたが、母があまり気にしていないようなので、私も忘れることにした。
「ねえねえっ、これ着てよっ」
高めのテンション、弾むような言葉と共に差し出されたのは……何かの生地。
「何、これ」
「浴衣よ、浴衣っ!」
「へぇ、浴衣ねぇ……」
濃紺の下地に、白と薄花色の百合が散りばめられ、それはとても大人っぽい雰囲気を醸し出していた。
帯は黄色。
明るすぎず、暗すぎない、金糸雀色に近い色をしており、濃紺という大人しめの色のアクセントとなっている。
ほぼ補色ということもあり、互いに、両色を引き立たせて、とても素敵なデザインである。
しかし、今風の顔立ちの母が着るには少し大人すぎな気がする。
母は……例えば白とピンクの、淡い感じの花があしらわれている布地に、くすんだ赤……そう、臙脂色の帯……。
「……ってこれ着るの私!?」
「え、そうよ。そう言ってるじゃない」
私はあんぐりと口を開けた。
「いやいやいや、着る場面ないし、こんなおしゃれなの私には勿体ないわよ、似合わない」
「いーや、絶対似合う!今日花火大会でしょ、着なさい」
「待って待って、それ以前にわざわざ買ったの、これ」
「いや?私の友達が買ったはいいけど、その子、亡くなっちゃって、ご家族の方がくださったの」
「じゃあ尚更私が着ちゃ駄目じゃない」
なんていう言い争いを、一時間程続け、根負けした私は、着るには至らなかったが、置いていくことを許した。
母が化粧ポーチを忘れていったが、返しにいく気力はなかった。