交錯白黒
「まさか、貴女を傷つけているとは思っていなかった。一方的に被害者になっていた。私は貴女が不当に攻撃してきていたのだと思っていたけど、お互い様だったのね。その発端になったのは、私。長い間、苦しめて申し訳なかったわ……ごめんなさい」
私は、震える足を叱咤し、彼女から目を逸らさないよう楔を深く刺すように見据え、腰を折った。
雑に結ったポニーテールの束から外れた後れ毛が頬に纏わる。
血に浸って余計に重みが増すのがわかった。
「な……何で……」
彼女の声色は、何か異形なものを見ているかのような恐怖や驚きに震えていた。
やがてそれは堪えたような呻き声に変わり、嗚咽になる。
彼女を支えていた堤が壊れて流れる豪流があたりを揺るがした。
こんなに、これほどのものを今まで支えていた彼女は、どれだけ気丈だったのだろう。
どれだけ我慢したのだろう。
その苦しみや頑張りを思うと、胸を痛めずにはいられない。
ただ――。
「……でも、橘くんを巻き込んだのだけは、それだけは許さない。関係ない人を利用しようとして、深く傷つけた貴女を、赦さない。私の今の立場で偉そうに言えたことじゃないけど」
「如月……」
橘くんの、安堵したような吐息混じりの呟きが、夜空に溶けた。
何て声、出してんのよ。
私は苦笑した。
愛のある苦笑、そう呼べるものだ。
「……私は、思ったことをそのまま言う。その方が合理的だと考えるから。それで沢山の人が離れていった。傷つけた。貴女も含めて、ね」
自分の傷を舐めるように、そして予防線を張るように皮肉った。
今更何を恐れて防衛なんてしているのか自分でも不思議だが、それが人間の性というものなのだろうか。
「それでも、私は私の生き方を変えるつもりは無いわ。私という存在でも、大切にしてくれる人が沢山いるから」
私は白女王なんて称される器ではない。
賢くも優しくもない。
それでも。
愛してくれる人がいるから。
「……貴女が辿ってきたあまりにも険しく過酷な道のりは、きっと無駄じゃない。幾重にも出来事と思いが交差して、絡まって、そうして生まれた結果がこれだったのよ」
私も、彼も、彼女も、そうだから。