交錯白黒
私は心の中でどんどん冷静さが崩れていっているのに、橘くんは汗一つかかず、涼しげだ。
脳内が壊滅的になりつつ、少しムッとした。
「ん?天藍、体調悪い?顔赤いわよ」
「いや……暑いだけよ」
掌を自分に向けて仰ぐような仕草をしつつ、橘くんが早く離れてくれることを渇求する。
「そう?私は冷房効きすぎて寒い位なんだけど……」
キョロキョロと周りを見渡した麗華は何かに気付いたように動きを止め、私の頬を人差し指でつついてきた。
「さーてーはー、恋、ね?」
「違うわ」
「いいのよ〜、照れなくて。さあ、白状しなさい」
「違うってば!」
……図星過ぎて安直な返ししかできない。
橘くんの家に泊ったときの話の続きだ。
***
「あー……そういえば、家に布団人数分しか無かったよね?」
瑠璃さんが思い出したように言うと、困ったように顔を顰めた。
「俺、畳で寝るから二人で使え」
橘くんが即答する。
「風邪引くわ。私が泊まらせて貰ってるんだし、私が畳で寝るわよ」
「いやいや、年長者だから僕が」
なんて言い争いを暫くして至った結論は平凡なもので、かつ最も平等なじゃんけんであった。
結果は、橘くんの一人負け。
でまあ、私と瑠璃さんが布団を一枚ずつ使用し、それぞれ少しずつ間を空けて寝室で寝ることとなった。
私も橘くんも疲れ果てていたので、横になるなり眠りに入った。
翌朝。
鼻先に生温かい風、背中に心地よい温もりを感じて目覚めた。
そして叫びが喉から突いて出るのを寸でのところで何とか抑える。
目の前に……橘くんの端正な寝顔。
お腹に重みを感じるな、と思えばそこに手が回されていて。
何とか暴れる心臓を落ち着けようと首だけ回して後ろを見ると、またもや声を上げそうになる。
瑠璃さんまでもが、私にくっついて寝ているのだ。
それはもう、私には刺激が強すぎて、毒が回ったように目眩がし、頭はぐわんぐわんと激しく揺れる船のように丿乀としているような気がした。
一度は布団に顔をうずめて視界をシャットアウトし、冷静さを取り戻すことを試みたが、何を思ったかちらりと上目で彼のことを見てしまった。
薄い唇から一定のリズムで漏れる息。
朝の眩く洗練された太陽光が艷やかな黒髪を彩り、睫毛の影をつくる。