交錯白黒
窪んだ鎖骨の上側、上下する喉仏、ガッチリとした腕など男らしさを感じる部分もあるが。
その寝顔は、あどけない子供のようで、優しい彼の素の姿のようで、やっぱりドキドキが収まることはなかった。
「う……うぅん」
心地よさそうな瑠璃さんの寝言らしき声を聞いて、盛大に体を跳ねさす。
そうだ、彼も後ろ側に張り付いていたんだった。
橘くんを凝視していたことがバレれば暫くの間執拗にネタにされかねない。
何とか起きていることを悟られないよう、私はもう一度瞼を閉じた。
「おきて、天藍ちゃん。朝だよ」
二度目の目覚めは、天使の甘やかな囁きによってだった。
「ん……?」
余程体力を消費したのか二度目の眠りもかなり深いものだったらしく、すっきりとしている。
ぐーっと布団の上で体を伸ばすと霞んでいた視界が鮮明になる。
ドアップ、逆さまの、瑠璃さん。
宝石のように魅惑的に太陽の光を四散させている瞳に吸い込まれそうだ。
「……うわぁあっ!」
ついに、というか、今更、というか、兎に角ようやく私は驚きの声を上げることができた。
るせぇ、と聞き慣れた一言が心臓の鼓動の裏で聞こえる。
「おはよ。そんなに怖がらなくてもいいじゃんよー」
瑠璃さんは唇を尖らせ、すっと顔を遠ざけた。
「こ、怖がるってか……あ、あああんなの吃驚するでしょ!あ、アホなんですか」
私は布団に縋るように抱き締め、朝が苦手な私には珍しく寝起きからキレキレの声を出せている。
「あは、焦りすぎ〜。あ、もしかして意識しちゃった?照れた?かーわい」
首を傾け、口に手を当てて悪戯っぽくクスッと微笑う天使。
「うるさいっ。そんなんじゃないです!」
可愛いのはどっちだよと怒号を浴びせたくなるところをなんとか堪え、いや、堪えられてはいないのだが、ここまでに何とか押し留めた。
「何それ、琥珀の真似?」
なんでだよ!!
「え、俺の真似なの、それ」
心底気味悪がっているような静かで限りなく冷たい言葉が私を更にヒートアップさせる。
「違うわよっ」
声がしたほうを睨みあげると、彼は私の予想以上に近距離にしゃがみこんでこちらをクールな瞳で見つめていた。
その透き通るように美しい瞳に影を落とす睫毛が早朝の出来事を想起させ、体の芯から燃え上がるように熱くなり、言葉を失う。
「〜〜っ!」
「変なやつ」