交錯白黒
自尊心を粉砕され、罪悪感が執拗に襲う悪夢のような夜が嘘のだったかのように、晴れやかな朝だった。
目の前に天使がいた。
俺はその女の天使のお腹あたりに手を回し、もう一人の男の天使も背後から女天使を抱いている。
輝かしい日光に吸い込まれるように静かに眠っていた。
ああ、愛おしい。
普段のツンケンした態度とは裏腹の、無防備な表情に俺の中の何かが猛烈に擽られる。
そこから離れようとは思わなかった。
離れたくなかった。
「おはよう」とはにかみながら囁いてくれそうで。
頬に貼られた大きなカットバンは嫌でも視界に入ってきて、俺の過ちを深く深く脳に刷り込んでくる。
彼女は、お互い様だと言った。
彼女は彼女なりに何か思うところがあったのだろう、俺は幾分心が軽くなったし、これ以上彼女の前でこのことを口にすれば気分はよくないだろう。
だから言わないが、やはり気にせずにはいられない。
もし、この陶器のように滑らかで白い肌に、無残な傷跡が残ってしまったらどうしよう、なんて、今更。
君は、君の少し冷たくて、捻くれたところが嫌いなようだけど。
俺はそうは思わない。
なせなら、その強さが、絶望に打ちのめされていた俺を救ったのだから。
それに……たまに照れるところが物凄く可愛いしな。
普段とのギャップからだろうか、悶える程に心を鷲掴みにしてくる衝撃が俺をノックアウトさせるのだ。
如月は……俺のことを、嫌っていないとは思う。
初めは、俺の失態で彼女に恐怖を抱かせていたようだが、少しずつ、今年一年で和らいできて、笑顔も見せてくれるようになった。
情けないくらい、君を渇望していた俺は、情けないくらい、満たされた。
でも、手に入れると更に欲しがるのがやはり人情のようで、俺は君ともっと近づきたいと思ってしまう。
でも、俺では駄目だとわかっている。
恥ずかしいくらいの痩我慢と生半可な優しさしか持ち合わせていない。
自分の境遇を作り出している奴に言いようもない怒りを抱いているのにも関わらず、何もしない、できない。
状況を、変えようとしない。
優しさなんて美化された臆病者、そしてそれを捨てようとしてロボットのようにただひたすら冷徹になった、ただの馬鹿。
こうやってナヨナヨくよくよ泣き言を零して反省して、その度に成長しようと心に決めるのに、全部、から回る。
ホント、アホだな、俺は。
だから、駄目なんだ。