交錯白黒
そう悩み倒していた矢先、追い打ちを掛けるように如月がよそよそしくなった。
だがそれは以前のように恐怖から怯えて、反射的に避けているのではなく、俺という存在を視認した瞬間、慌てて避けているという、なんとも間抜けなものである。
俺だけならまだしも、それは瑠璃と遭遇した際にも顕著に現れる症状だった。
これがまた謎行動なのだ。
麻疹のような一時的なものかと思って暫くの間はいつも通り接していたが、中々治らない。
いよいよメンタルに食い込んでくるダメージになりそうだ。
只でさえ、結ばれないと分かっていながら日に日に大きくなる想いに胸を焦がすようなもどかしさに足掻いているというのに、嫌われでもしたとわかった日には俺はどうなってしまうのだろうか。
だが如月からそのような雰囲気は感じ取れない。
嫌われていたら、もっと禍々しく寒気がするような黒い感情を、取り繕う気も感じ取れないように剥き出しにぶつけてくる筈。
そういう粘っこいものとは少し違う気がするのだ。
「高田、ちょっと」
気になってじっとしていられなかった俺は如月と戯れ合う高田を呼び出した。
如月が睨んできたように見えたので少し目を瞠った。
「如月、何か様子変じゃないか?」
廊下でコソコソと耳打ちし、高田の表情を確認してみるが、何とも不思議そうにキョトンとした顔になった。
そして肩と頬を震わせて頬を紅潮させた。
笑いを堪えているようにしか見えないその態度に僅かに不快感が噴く。
「な、何だよ」
「いーや、別に。あたしも何が原因かは知らないけど、おおよその見当はついてるわ」
何故高田が笑っていたのかははぐらかされたが、この際それは置いておこう。
「それ、何」
「教えないわよ」
「はっ!?」
当然でしょ、とでも言うように、彼女は淡白に言葉を続けた。
「確信している訳でも無いし。それに私の仮説が合っているとすれば、橘だけには話せないし」
「はぁ?んだよ、それ」
「ま、頑張って」
何やら楽しそうにそう告げると高田は如月のところへ帰っていった。
俺にだけは伝えられない、とは何なのだ。
ゆっくりと溶岩が流れていくようにどろりとした粘つく熱いものがふつふつと噴き出してきた。
何だよ、それ。
苛立ち紛れに小さく呟いたと同時に何の裏取りも無い仮説が俺の頭を掠めた。
自分の出生、もしくは俺の出生について、新しい事実が判明した……?
夏休み後半は調査が停滞気味だったので前半に露わになった事実などを照らし合わせて、如月が単独で調査をしていたと考えてもおかしくはない。
でも、それなら伝えてくれる筈。
ただ……人に言えないような残虐非道で惨い事実が判明したのなら……。
淡い疑念が憂慮と焦りを巻き込み、膨らんではち切れそうになる。
あいつは、何かを隠しているのか?