交錯白黒
「テストどうだった?うまくいった〜?」
「うまく行ったも何も、いつも通りですよ」
キラキラと期待を輝かせながら小動物のようにそう尋ねてくる天使を前に、集中できなくって結構やばかった、だなんてどこの誰も言えないだろう。
「今日部活無いんですか」
「うん。大会後の休暇だってさ」
「へえ。しっかり休んでくださいね」
「やっさしぃ」
「やっぱ車と一緒にその辺走ってきてください」
やはり橘くんとの間には瑠璃さんがいると助かる。
瑠璃さんと目を合わせるのもまだ確かに抵抗はあり、視線がかちあいそうになる度自然に目線を逸らしている。
橘くんと違い、瑠璃さんは後ろからの刺激だったのでまだ緩いほうであったのだろう。
でもやっぱりあのあどけない表情は目の保養どころか、もう毒である、猛毒だ。
私には痺れるようにその毒が全身に回っているところなのである。
あの鈍感な瑠璃さんだ、早々に私の変化に気づくことは無いだろう、橘くんでもあるまいし。
「何で最近目、逸らすの?」
「は……はぁ?」
迂闊だった。
この男、こういうことには殊更鋭いのだということを、何度も経験してきたのに。
「僕何かしたかなぁ……」
「え、いやいやいや、普通ですって。いつも通り、そう言ったでしょう」
玩具を奪われた小型犬のようにわかりやすく落ち込むのでこちらも焦りを駆り立てられる。
「お前さぁ、何か隠してるだろ」
戦慄にも似た焦燥が背中から脳天を突き抜けた。
「何かって……何よ」
喉仏を押さえて声が震えても不自然にならないようにしてみたが、その手が震えているのであまり効果はみられない。
「それがわかんねぇから聞いてんだろ。お前最近変だぞ?俺のことも避けてるだろ?」
「なっ……!」
あまりにも直球すぎる言い方に頭に血が上る。
それはその筈、彼らは寝ていて意識しているのは私だけなのだから。
「……橘くんと瑠璃さんのせいなんだからね」
「は?」
「わ、私が気づかないとでも思った!?あんな、寝てる間に、だっ、抱き着いたりして……!は、恥ずかしくってマトモに顔なんて見れるわけないでしょう!」