交錯白黒
俺は表情を崩さないことに精一杯で、言葉を発する余裕など生まれなかった。
俺は事前に知らされていたから如月に比べショックは軽いほうだと思うが、やはりもう一度声に出して事実を告げられると、その言葉が重みを持って迫ってくる。
如月はというと、口を半開きにして、前髪から覗く瞳孔は、明らかに行き場が無いように彷徨っていた。
寧ろ俺はそこまでに抑えたのが凄いと思う。
だが今一番苦しいのは瑠璃だろう。
正義感と思いやりの狭間で揉まれ、結果的に思いやりを捨てた罪悪感に苛まれているのが手に取るようにわかる。
良心の呵責が彼を蝕み、いずれこの前のように崩れかけやしないか心配だった。
「ごめんね……本当に、ごめん……でも、僕は……こうするのが最善だと思ったんだ……これからのために……」
前言撤回をしよう。
彼は思いやりを捨てた訳ではない。
捨てたのは表面上だけの浅はかな、思いやりとすら呼べないような粗末な甘さだ。
彼は先を見据えて、例えそれが現在、辛く、よくない結果となったとしても、未来に繋がると考えたから、その身を犠牲にするつもりで行動を起こしたのだろう。
要は、彼は思いやりの塊だったのだ。
俺は瑠璃の傍に寄って、クシャを頭を掻き撫でた。
「……状況を整理するぞ」
この場面をこういう形で事務的に切るのは心が痛むが、いつまでもこの沈黙は瑠璃にとっても、如月にとっても、そして、俺にとっても、息苦しくてとても耐えられたものではない。
この状況下でそれを打破できるのは俺しかいないのだから、多少冷徹になったとしてもやるしかないのだ。
「この鑑定結果からわかることは、
①俺、瑠璃、如月には血縁関係がある
②瑠璃と如月は兄妹
③俺と如月は親子
③②、③から如月がクローンの可能性はほ
ぼ無くなる。また、ゲノム編集された可
能性も極めて低い
④②、③から如月の本当の両親は恋藍、珊
瑚夫婦である
ってことぐらいか」
「……橘くんも知ってたのね」
俯いた彼女からはどんな感情も読み取れない。
心臓が飛び出しそうなほどの吐き気を押さえて、平静を装って返事をした。
「ああ」
「よくそんなに冷静でいられるわね。だって、私達の血液型って遺伝性じゃないじゃない。こんな奇跡、信じられないわよ……」