交錯白黒
どうする。
そういう目配せが一瞬にして周回するこの3人はやっぱり優秀だと、そう改めて思う。
だがそんな俺らでも、この緊急事態には無対策だったので固まるばかりだった。
「全く、小賢しいことをしおって」
「あっ……!」
鼓膜を擦られるように響く濁声の主は手にしていた紙を真っ二つに破く。
「子供がこんな世界を詮索するんじゃない」
そう言い残して彼は去ろうとした。
俺は溜まっていた鬱憤が山のようにある、それをぶちまけようと思った。
だけどいざチャンスとなると言葉を飲み込んでしまう。
俺は瑠璃のように派手な反抗さえできない。
なのに、無関係の人に啄かれると過剰に反応してしまう自分は、やはりまだまだ弱っちいのだろう。
「私の父親なんでしょ」
滾るような怒りと泣きたくなるような悲痛さを兼ね備えた鋭い声が彼の足を食い止めた。
「今、わかったんだから。逃げたって無駄、橘くんのことも、私達が離れ離れにならなきゃいけなかった理由も、話してもらうわよ。責任放棄なんて、赦さないから」
「くだらない。付き合う時間が勿体ない」
俺達を一瞥して、また部屋から出ていこうとする親父に食いかかるような素早さで如月は声を継ぐ。
その必死さは獣そのものだった。
「貴方、気づいてたのよね?私が如月櫻子、即ち如月病院の院長室の前で会ったときから、私が貴方の娘だって。私がここに通っていることも。だからここで私を見てもさほど驚かなかった。でも、貴方は私達を遠ざけようとはしなかった。それは、引き離してしまった兄弟が、その繋がりを知らないにしても、仲良くして欲しい、という親心の表れなのではないの?」
親父は微動だにしない。
心がやじろべえのように揺れ動いている最中なら、ここで一気に突いてしまえばいい。
俺は弱いままじゃない、かましてやる。
「……俺を作った理由も聞かせてもらうからな」
瑠璃がはっと息を呑む気配がしたが、俺は構わずに続ける。
「俺は!!皆と違うから、でもそれは表面上からは見えないから、一人で殻に籠もって苦しむしかなかったんだ!それがあんたにわかるかよ!?生まれてからこの17年間、クローンという柵みに色んな物を奪われてきたんだ!!周りの人だって傷つけるから、容易に近づけないんだよ!!愛を知らなかった俺に愛を教えてくれたのはコイツらだ、あんたじゃない、本来あんたが教えるものだろ!?俺は要らない命、スペアとして生まれてきたのか?なあ、どうなんだよ!!」