交錯白黒
「親父!!」
上擦った誰かの叫びと共に、親父がゆっくりと後方に倒れていく。
床にぶつかる寸前で受け止めて寝かせた。
「親父!?親父!!大丈夫か!?」
発汗、震え、意識障害……。
「瑠璃さん、救急車呼んで」
「今呼んでる!」
「多分彼、話し始める前に手に隠した何かの毒を水と一緒に飲んだのよ!そこに錠剤を一粒零してるわ」
如月が親父を挟んで向かい側に立膝をつき、畳に落ちていた錠剤を拾い上げる。
親父が薬を服用していることなど知らず、見た目からも何のものかわからなかった。
「これ、インシュリンだよ……」
救急車を呼び終えた瑠璃が如月の手から錠剤を取り、そう断言する。
その顔はみるみる青ざめ、唖然を通りこして愕然としていた。
「インシュリンって注射じゃなかったか?」
「最近、錠剤のタイプのものが発明されたんだ」
瑠璃は睨むように鋭く瞳を歪めると襖を乱暴に開けて部屋を出て行った。
恐らく砂糖、もしくは糖分の入った物を探しにいったのだろう。
「インシュリンって何?」
「血糖値を下げる薬だ。血糖値が正常な人が服用すると、血糖値が下がりすぎて死ぬ。恐らく、状況証拠と症状から察するに今は低血糖昏睡の状態」
親父は高血糖ではない筈だ。
病院から持ち出したのだろう、俺たちが詮索し始めていることに気づいて、どうしても追い詰められて言い訳できなくなったとき、死ぬために。
責任をとると言って、自己満足するために。
勝手に罰を与えて、襲い狂う罪悪感から逃れるために。
俺はそんなこと絶対に赦さない。
罪人に生きていて欲しいとか、自殺は良くないことだとか、そういう美談はもう求めない。
如月のときとは訳が違う。
親父も被害者な面はあり、特に俺はその気持ちが本人のようにわかる。
だが、犯した罪に変わりはない。
人を殺した。
愛する人を救えなかった。
家族を引き裂いた。
良心の呵責に苦しんだ。