交錯白黒
「……教えてください」
渦巻きが止まらない悲しみを掻き分けるように、青空の下の草原の強い青色を思わせる、芯のある声がした。
さらりと揺れた黒髪に撫でられた睫毛の奥の瞳で、青く鋭い光が瞬く。
「まだ、いくつか疑問があります。親父の尻拭いをしなきゃならないんで、包み隠さず、話してください」
橘くんは、尻拭いをしたいんじゃないんでしょ。
珊瑚をこんな運命に導いた、一つ一つの因子を取りこぼさずに集めて、理不尽な因子にはそれなりの報復を与えるつもりなんでしょ。
君の照れ隠しはわかりやすすぎる。
「……そうね」
櫻子に視線をやると彼女は私を安心させるように目を細めた。
大丈夫だから、そう言っているように見えた。
「さて、君たちはどこまで知った?」
瑠璃さんが珊瑚から伝えられた概要を、普段の甘い声の影も無い、枯れ果てた声で端的に話す。
櫻子は瞼を伏せた。
「そう……そんなに話したの……何でそんな急に話したくなったのかしらね」
「あ、それは……」
「それは、俺等が調査してたからです」
私の声に、橘くんが食い気味に被せて来て、反射的に口を噤む。
私はある種の不信感を抱きながら、彼の横顔を観察するが、そこから揺らぎは見られない。
「何の?」
「親父の犯罪の証拠と、如月天藍の生み親の捜索が主な調査内容です」
心臓に流れる血液が濁流のように押し寄せ、苦しみに耐え切れず、俯く。
「へえ、そうなの」
想定以上に反応が淡白で逆に驚き、刹那、呼吸がとまった。
櫻子は、ある程度、予想していたのか?
私と橘くんが会っていることは知っているにしろ、そんな深いところまで正確に予想できるだろうか。
もしかして、私が櫻子の部屋に侵入したとき、何か痕跡を残して勘付かれたのか?
「それじゃあ、知りたいこと、聞いて」
「……一つ目。クローン作成を唆した珊瑚の友人とは、誰か知っていますか」
声が硬くなり、橘くんの顔を確認すると、瞳孔に熱っぽい光が浮かんでいて、その真摯さに気圧された。
「……タカタ、ハナトよ。漢字は、身長が高いの高、田圃の田、華やかの華、遥斗の斗。高田 華斗」