交錯白黒
彼らの目を見て真摯にそう告げることができず、ただ微動だにしない爪先と踵を焦点の合わない視界でぼんやりと眺め、その癖心臓だけが元気だった。
「……俺ら、冤罪作るところだったんだぞ」
地を這うように低くそれでいて強い忿怒の籠もった、いわば噴火前の活火山のマグマのような、そんな声。
彼の逆鱗に触れたのかもしれない。
「決めつけて、散々親父を憎んできて、まともな会話もしないで、な。……なのに、今日初めてまともに話したかと思えば、全部俺らの勘違いで、仮説も全部狂って。謝る暇も無く、死んだ」
もしかしたら爆発するかも、そんな淡い恐怖が橘くんの言葉に吹き飛ばされ、残ったのは濃く脳裏にこびりついた罪悪感。
「俺だって、父親という存在が欲しかった。俺が決めつけなければ、それなりに親子らしいこともできたかもしれない。瑠璃だって自然体のままで、親子3人で仲睦まじく過ごせたかもしれない。親父と、苦しみを分かち合うことができたかもしれない。俺はきっと、俺の苦しみは俺しか経験していないと勝手に思い込んでいたんだろうな」
橘くんが吐露した思いがあまりにも重く、耐えきれずに顔を上げたが、正面には大きな背中があるだけだった。
……いつの間に、太陽が沈んでいたのだろう。
微かな星明りの瞬く濃紺の空と、その中でもくっきりと輪郭を結ぶ漆黒の学ランの背中を見てそう思う。
「俺と同じくらいの苦しみや、殺人という重り、そして強い罪の意識。良心の呵責。常人が背負いきれないほどのものを背負いつつ、守っていた子供二人にも目の敵にされる。そんな酷いことって、あるかよ。死にたくなるのも、わかるわな。だからさ、これからは……親父は俺達が殺したっていう認識で、真実を明らかにして、親父の嫌疑を取っ払うべきだと、俺は思う」
彼の意志は相当強い、容易に崩せるものではないだろう。
「……僕は、琥珀の言うとおりだと思うよ。でも、天藍ちゃんには天藍ちゃんの考えがあるし、君が言うようにもう一人のクローンの子のことを思えば、ここで止めておいたほうがいいっていうのも、物凄くわかる。だから、無理して僕等に合わせる必要は無い。……君は、どうしたい?」
そんなのわからない。
……私は、どうしたら。