交錯白黒
「私の父が死んだのは、丁度天藍と琥珀の秘密を知った直後だった。他殺で、包丁か何かで滅多刺しにされていたらしいわ。犯人はわかっていない」
また殺し。
そんな血みどろな世界に僕たちは関わっているのだと、改めて思い知らされた。
「だけど犯人の目星はおおよそついているそうよ。何故かって、祖父も他殺で死んでいるから」
「は……?!」
高田さんの睨んだ形の瞳から赤い閃光が放たれたように見えた。
赤い唇が憤怒に歪む。
「祖父は私の父くらいの年齢のときに殺されたらしいの。他殺だったようだけど……表沙汰にはならなかったし、初めは事故死だと遺族に伝えられた。でも、祖父の死に疑念を持った父は自ら調査し、他殺であること、そして容疑者の特徴も見付けだしたそうよ」
「何で君は、そんなにお父さんのことに詳しいの?」
事前に文に起こしてきたかのようにすらすら話を進める高田さんに、若干の恐怖を感じながらおずおずと尋ねた。
「……父が酒に酔うと毎回この話をするから。父は警察に行って、自分の調査の成果を話したけれど、所詮、子供の言うこと。全く取り合ってはくれず、結局事件は迷宮入り。それが父の心の奥底にへばりついて離れなかったんだわ、きっと」
高田さんの目つきが僕すらもすり抜けて途方もない遠くを見つめるようなものになる。
「そっか。ありがと、続けて」
高田さんは焦点を僕らに戻し、妖美に微笑した。
「そういう訳だからね、これ以前のも、これから話すのも父から聞いた話。父はまず動機を調べた。殺害現場が祖父の職場で、証拠からの犯人特定が難しかったからよ」
子供は勿論のこと、一般人は現場に入れてもらえないだろう。
確かに、警察が事故死にしようとしていたのなら尚更、証拠物など見せてくれなかったのだろうな。
「祖父は基本的な人格は穏やかだったらしいから、私事では恨みも、痴情の縺れも、金銭的なトラブルも見つからなかった。ただ一つ、たった一つだけ、強い動機になり得るものがあった。それは、祖父の職業、そして職務内容」
高田さんはそこで唇を閉ざし、こくんと喉をならすと琥珀のほうを申し訳なさそうに一瞥した。
「研究者だったのよ。遺伝子関連の」