交錯白黒
「そして祖父は……遺伝子操作でデザイナーベビーを生み出すことに成功していた」
僕と琥珀の間に静電気が走ったかのように、二人の体が小さく跳ねる。
考えていることはきっと同じだ。
「そのデザイナーベビー、名前とか、生まれた年とか、わかる?」
高田さんは僕らの質問に怪訝そうな顔をし、黒目を上のほうに寄せて暫したあと、譫言のように浮遊感はある声だったが、答えてくれた。
「サンゴ……」
僕は反射的に琥珀の顔を見ていた。
琥珀も同様で、いつもは人形のようなその顔に明らかに混乱の色が濃く出ていて、額から滲んだらしい汗で前髪がしっとりと濡れ貼り付いていた。
だけど、混乱の中で事象の渦の中を弄り、必死に記憶を掻き出していると、一つ、謎が解けた。
といっても仮定だが、ほぼ確定と言って差し支えないだろう。
「それ、僕らの父親だよ。100%」
声は出ていないが、彼女の口がえ、という形になったまま戻らない。
瞳が丸いまま、瞳孔が激しく揺れる。
「それで、君のお祖父様を殺害したのも……僕らの父親。彼も最近死んだんだけど、その直前に自白した。……お父様の名前、高田……華斗さん、で合ってる?」
高田さんは妖怪でも見るような恐怖と気味悪さが入り混じった目で見る。
僕から視線を外さぬまま首を前に突き出すような形で肯定を表した。
「ご職業は?」
「表向きは医者を……本質は祖父と同じです。本人は道徳に反することだとわかっていながら、祖父の研究を受け継いでいたみたいです。祖父のことを本気で尊敬していたからこそ、ショックが大きかったんでしょうね……」
やっぱり。
僕は唇を舐める。
これは僕の推測なんだけど、と若干責任を放棄した前置きのあと、推理をを述べる。
「君のお父さん、僕の父に復讐するために、お祖父様の研究を継いだんだ」
高田さんのロングヘアーが小刻みに震え、鏡のように艷やかに反射する光も微動した。
華斗は祖父の死について調査した結果、犯人、つまり僕らの父珊瑚に辿り着いた。
しかし、その時点で珊瑚と華斗が深い間柄の友人で合ったのだろう、華斗は珊瑚を検挙させることを躊躇う。
当然、命で償うことも。