交錯白黒
だから、殺さない程度に、それでいて身が切れるような苦しみを与える、残虐な復讐を考えた。
それが、クローン作成だったのだろう。
珊瑚自身が人によってプログラムされた身であるため、その痛みや苦しみが人一倍わかる。
息子を同じ境遇にすれば彼は自殺を考えるほど悩み、追い詰められるだろう、華斗はそう考えたのではないだろうか。
それが彼なりの祖父の敵討ちだった。
都合良く彼女の妻が病に伏し、回復の見込みがなかったために、それを口実として珊瑚まで巻き込んだ。
苦渋の決断だったに違いない。
華斗の病院を、潰れたと珊瑚は表現していたが、そこだって、もしかしたら足がつかないように華斗が自ら撤退したのかもしれない。
僕はこの推理のみならず、今までの調査でわかった全てのことを交えて、包み隠さず高田さんに話した。
「その推察、当たってる可能性高いです。父の研究拠点はアメリカでしたし、天藍のこと知ってましたもん。橘や瑠璃さんと引き離されて育てられたことも」
高田さんが白くなめらかな指を顎に添え、まるで名探偵のように前傾姿勢になる。
その背後に佇む掛け時計は12時を指していた。
「確か、俺のこと知ってた奴もいたよな」
重なっていた短針と長針がカチリとずれる。
「あ、そうね……令くんだわ。なんでも研修医時代に橘の問診をしたとかで……。何か聞きたいことがあるなら連絡とるわよ?今すぐ」
「いいのかよ、今、深夜だぜ」
「ま、大丈夫でしょ。知りたいのよね?自分の出生の真実を」
はっきりと言葉として目的を話していないのに的確な推理をかましてくる彼女は、やはり常人よりは頭の回転が速いのだろう。
スマホを片手に得意げな笑みを湛えた視線のみをこちらに向けている。
どことなく、天藍ちゃんと雰囲気が似ていた。
「んじゃ、頼む」
「OK」
高田さんはスマホを持つ手をロングヘアーの間に滑り込ませ、閉口する。
僕は、何か一つでもいいから手掛かりを、という願いと、そもそも電話に出てくれるのか、という不安で、深夜の張り詰めた静けさも相まって落ち着いていられなかった。
多分だが、その、レイという人はアメリカの研究所に勤めていたのだと思う。