交錯白黒
「琥珀兄、お話ししよ。俺ん家きて」
そんな可愛らしい連絡をくれたのは、如月天藍の弟、如月遥斗だ。
遥斗も災難だ。
彼女を今年の始め失ったばかりにも関わらず、義理ではあるがそれでも生まれてからずっと一緒に過ごしてきた姉をも失いかけている。
それも、同じ病気で。
彼こそ、小学3年生という年で身近な人の死を経験しているのに、気丈なものだ。
俺の家とは正反対の、欧風のおしゃれな家にお邪魔する。
「あ、いらっしゃーい」
ニッコリと細めた色素の薄い、ハーフのような彫りの深い瞳はやはりまだまだ幼かった。
にも関わらずその下の涙袋は青黒く染まっていて、如何にも体調が悪そうである。
気丈だなんて、そんな筈が無かった。
小学3年生の小さな体で、これだけ大きく重いものを受け止めきれるわけが無かった。
「大丈夫か」
「なんの話?っても一つしかないか」
眉を8の字に下げ、ハハッと笑い飛ばした大人っぽい少年はいつもより何倍も大人だった。
それがあまりにも……世の中に理不尽を感じさせて、やりきれなくて。
抱き締めて、子供に戻してやりたかった。
どうしてこんな幼い子供に、こんなに惨く、濁った世界を見せなければならないのか。
巻き込まれてしまうのか。
「琥珀兄」
かしこまったような口調が空気をより張り詰めさせた。
「天藍姉を……救ってくれて、ありがとう。笑顔にさせてくれて、ありがとう」
違う、俺はそんなことはできていない、寧ろ泣かせてばかりで。
笑わせたのは、瑠璃だ。
そんな否定の言葉が喉から出そうになるが、それを封じ込めるかのように遥斗が続ける。
「琥珀兄と関わるようになって、天藍姉は変わった。あ、いや勿論全然変わってないところもあるけど、言葉を選ばずに言うと人間らしくなった。天藍姉の本質を引き出してくれた。天藍姉が死んだみたいに言うけど、起きたら絶対お礼言うから、あの人」
血は繋がっていなくとも、生まれてからずっと一緒にいたという事実が、彼の言葉をより頼もしく、そして彼自身の自信を裏付けるものにしていた。
ただ一つ、如月が起きるという点だけを除けば。