交錯白黒
あたたかくない春

王子のキス

 
唇に温もりが触れた気がして、目を覚ました。

何故かそれを離すまいと抱きしめようとすれば腕は空を切る。

頬には涙が流れ、不明瞭な視界で確認できたのは白い天井のみ。

ああ、私、またここに……。

「天藍ちゃん!」

「る……り……さん」
 
「天藍姉!!」

「は、ると」

「天藍……!」

「れいか」

でも今までと一つ違った。

私は一人じゃなかった。

「おはよぉ……」

思わず顔を綻ばせると、これでもかというほど、3人に抱きしめられた。

「ちょ、苦しいわよ……」

苦しいのも本当だが、それ以上に頭がまだぼんやりとしていて冷静な判断が下せない。

「よかった……!ホント、よかったぁ!!」

「ふふ、麗華、泣いてるの……?」

猫のような目は真っ赤で、下瞼はくっきりとくまができている。

それは麗華だけではなかった。

「天藍姉は心配ばっかかけんだから!どうしようもない姉だよ、ったくぅうう!!」

「はいはい、私はこんな優秀で優しい弟がいて幸せね……」

サラサラの茶髪をヨシヨシと撫でると、私も懐かしくて落ち着いた。

「天藍ちゃんが今日は素直だぁ!喋り方もフワフワしてて可愛いぃい!」

「はっ倒しますよ」

「えぇえ辛辣!でもそれが天藍ちゃんだよぉ、良かったぁ」

漫才のようなやり取りさえ、愛おしい。

3人してビービー泣くので私は呆れかえって、でもそれ以上に物凄く幸せで、3人の頭をうまく力が入らない腕で精一杯抱き締めた。

幸せだと思っていた。





――どうして神様は、特定の人間に不幸を重ねていくのだろうか。


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