交錯白黒
肌寒かった秋は消え、包み込むような優しい陽の光が、春を感じさせる。
いつもならあたたかな風に心はホッとする筈なのに、生温い不穏な気配しか感じ取れない。
「おはよう!」
ゾクリと寒気が走り立ち止まると、背中を叩かれながら挨拶をされた。
「あ、おはよう麗華」
「何かあった?顔色悪いわよ」
「……大丈夫よ。病み上がりだし、久しぶりで緊張してるのかも」
ニッコリと笑って見せるが、この目つきだ、少しも柔らかくは見えないだろう。
私には朗らかな笑顔なんて似合わない。
不敵な笑みが、ぴったり。
それがいいわ、だって私は綺麗な白ではないもの。
「ねぇ、貴女、この前の学年末どうだったの?」
聞くと、横に並んでいた麗華の足取りが遅くなり、少しずつ距離が空く。
私は足を止め、怪訝に思いながら後ろを振り返った。
「どうしたの?」
「1位、獲ってやったわよ」
普段なら自信に満ち満ちているであろうそのセリフも覇気が無く、斜め下を見つめて私と目を合わせようともしない。
様子がおかしい。
「……おめでとう。次はその座、取り返してやるわ」
発破をかけてみても無反応だ。
いつもみたいな気の利いた嫌味など返って来ず、余計不安に駆られて畳み掛けるように言葉を次ぐ。
「じゃあ橘くんは2位だったの?珍しいわね。体調でも悪かったのかしら」
「さ、さあ、知らないわ」
麗華はやっと私の言葉が届いたかのようにはっと体を震わせ、弱々しい声を発しながら私の隣を過ぎ去った。
すらりと高い背中がとても頼りなく見えた。
一体何なのだ、この胸のざわめきは。
足元から得体のしれない寒気が這い上がってきて、ぞわりと気持ち悪い。
折角、新しい春なのに……。
ひゅお、と温い風が髪を取巻いて、逃げていった。