交錯白黒
驚いたのはそれだけではない。
ドナーカードには家族署名が必要なのだが、そこに、私によく似た筆跡で「橘恋藍」とかかれているのだ。
勿論、私は書いた覚えなどない。
橘琥珀の手記によれば、『小亜束千稲から落としたドナーカードが返ってきた。家族署名の欄には何故か生きているはずの無い、俺の母親の名前が。筆跡が如月天藍にも似ていることから、何か関係があると睨むべきだろう。』とある。
それに千稲ちゃんは、カキツバタという花が好きだった。
花言葉は、『希望』。
つまり千稲ちゃんは……自身が恋藍のクローンであることを知っていた、或いは悟っていた?
私が守らなくとも、自分で自分を守れていたのだろうか。
「……千稲ちゃんは、きっと嬉しかったと思うよ」
何もかも、私の心を見透かしてくる。
涙腺が緩みそうになって、ギュッと日記帳を握り締めた。
「それで、その……」
「うん。一番気になってるよね。僕は、ほぼ100%そうだと思うよ」
息が荒くなる。
視界が霞む。
「琥珀は、脳死だったんだ。心臓の臓器提供ができる。僕はショックが大き過ぎて、何を話したか覚えてないけど、今思い出したら臓器提供のことを話した気がする。それに、この希少な血……」
ねえ、やめて、もうこれ以上――!