交錯白黒
目の前は、一点の曇りもない、白。
どこを見渡しても、白、白、白。
……俺、死んだんだ。
数秒のタイムラグの後、ぼんやりと理解した。
あの後、脳を切り裂くような頭痛に襲われて、それから──。
眠り姫は、目覚めただろうか。
此処にいないということは、そういうことなんだろう。
幾分ホッとして、後悔に襲われる。
――俺の口から伝えたかった。
何年も引きずってきたこの想いを。
溢れて止まらなくて、止められなくて。
好きだって──。
さて、こんなカッコ悪い死に方した俺は、あいつの生きる原動力になれたのだろうか。
俺の心臓は、あいつの心臓になれたのだろうか。
俺にできる最後の贈り物だった。
例え道徳心に反していたとしても、あいつだけには。
全て、分からない。
今、あいつはどうしているのだろう。
笑顔で、走ることが、できているだろうか。
……できることなら、俺は一生如月の側にいたかった。
あいつと、笑い合っていたかった。
平坦な道のりでなくていい。
どんなに荒れていても、曲がりくねっていても。
如月となら、乗り越えられたと断言できる。
だって、黒と、白だぜ。
どっちも汚れてる。
こんなにお似合いなこと、あるかよ。
俺は、如月の隣にいるだけで良かった。
他に何も望まなかった。
だけど、それはもう叶うことはない。
……ゆっくりと、眩しいくらいに、白い光の筋が差し込んできた。
それはまっすぐな道となり、俺を呼んでいるようである。
"酷い人"
その光に足を差しだそうとして、引っ込めた。
如月の声で、そんな言葉が聞こえた、気がした。
悲しみを含んだ、弱々しい雰囲気を纏った声だった。
如月と過ごした日々が俺の足を絡め取り、離さない。
ここに来て、後悔が俺を縛り付けた。
俺は行かなくちゃならないんだ。
もう戻れない、永遠に。
だから、最期のお願いをさせてください、神様。
正直、運命が憎くて憎くてしょうがない。
だけど、死んでしまった人間が生き返ることなど、無い。
だから、俺の、最期の願いは。
あいつが幸せに過ごせますように──。
そして。
神様、厚かましいなんて言わないでください。
如月への最期の贈り物は、届いていますか?
俺が、俺の一生を懸けた、俺の命の全てを。
届けてくれているのだとしたら。
如月。
お前にはやり残したことが沢山あるけれど。
お前と、ずっとずっと過ごしていたかったけど。
お前の、笑顔を守りたかったけど。
とても悔しいけど。
お前の"生きる"ことの原動力となれたのなら。
そこまで思ったところで、体が、空気になったかのように軽くなり、後悔の縛りが解けた。
アイツのように、白く、儚げで、輝かしい光の筋に吸い込まれるようにして、足を踏み出した。
……絶望の縁に立っていた俺を助けてくれて、ありがとう。
俺の分まで、生きてください。
でもやっぱり。
あいたいよ。