交錯白黒
「……っ」
ズグン、ズグン、と脈打つように痛みが脳を回る。
外はそれほど曇っていないから、これから降るのだろうか、と窓を睨む。
私は偏頭痛持ちだ。
昨日、院長室を突撃した。
だが、母は職務に入っていたようでおらず、更に来客がいたようで、秘書さんに追い返された。
でも負けていられなくて、秘書さんに頼んで頼んで頼み込んで、母が「流旗」という名字の人を担当しているか確認して貰った。
そんな人、母は担当していなかった。
今日は、問題の知成さんが来る。
偏頭痛に負けず、あの奇妙な行動の正体を暴いてやる。
変な人だったら、遥斗との付き合いはさっぱり清算させ、今後近づくことのできないようにさせるつもりだ。
コンコン
……来たな。
「どうぞ」
緊張からか、声が上擦ってしまい、咳払いをして整えた。
「失礼しま〜す」
今日もまた、ニコニコと笑顔だが、それすら警戒する。
「あの」
予想以上に大きく、通る声が出てしまい、嫌な静けさが震えを誘った。
私は怯えてなんかいない、と言い聞かせ、なんとか声だけは震えないよう気を付ける。
「橘琥珀って、知ってますか?」
空気が張り詰めた。
息をするのでも、壊れてしまいそうで、苦しい。
知成さんは困惑した様子で黒目をキョロキョロさせて答えた。
「え、いや、知らないけど。どうしたの?」
……じゃあ、あの紙袋のことも説明がつかない。
やっぱりこの人、おかしい。
張り詰めた雰囲気に負けず、自分を保つためにキッ、と知成さんを下から睨みつけた。
私はもともと目が切れ長だから、かなり怖いのではないか。
思惑通り、知成さんは怯んだ色を見せ、白いスニーカーを少し後ろに滑らせた。
「あ、天藍ちゃん……?」
「あなた、遥斗とどういう繋がりなの」
「え……?」
知成さんは真っ黒な瞳を縁取る睫毛を上下させ、一度唇を引き結んでからまた開いた。
「言わなかったっけ?僕の身内が……」
「私の母に治療してもらってる、なんて嘘、いらないから」
「嘘じゃないよ」
「嘘よ」
「母が担当している患者の中に、流旗なんて人、いなかった」