交錯白黒

「……で」

反論させまいと知成さんの口が開きかけたタイミングで、食い気味に言い連ねた。
 
「それに、私最初あなたに『天藍ちゃん』って呼ばれた。なのに、その後名前を聞いてきたじゃない」

「……」

「どういうことなの。説明できないようだったり、変な繋がりだったら今後一切、遥斗に近寄らせないから。もちろん、私にも顔を見せないで」

相手に考える隙を与えてしまうから、沈黙の時間を作りたくなかった。

真実を吐かせるために、私はまくしたてる。

「早く答えて。あなたの言ってた通りの関係なら、すぐ答えられるはず」  

「……くくっ」

……笑ってる?

この局面で?

この世に無いものを見るかのような気持ちで知成さんを凝視し、思い直す。

この人、情緒がクレイジーなのかもしれない。

「くっ……あっ、ふ」

あの大きな瞳がすっかり細くなってしまい、涙を滲ませながら笑うのを堪えているようだ。

その態度に、驚きの一色だった私のは、それがだんだんと苛立ちへと変化する。

「な、何がおかしいのっ」

「くっ……あっ、ごめん……っっ」

はー、はー、と息を荒げ、うっすらと滲んだ涙が黒い瞳をてからせていた。

知成さんはまだ笑い足りないのか、若干押し殺したような声を紡いだ。

「僕のお世話になってる身内ねぇ、訳あって別の名前で登録してもらってるんだ」

「……は?」

……何それ。
 
「だから、『流旗』なんて人、いないの、当然だよ」

「でっ、でも名前」

「あぁ、それは、遥斗から読みは聞いていたけど、漢字は聞いてなかったからね」

「……」

羞恥でボン、と音が出てもおかしくない勢いで全身に熱が上った。

「……すっ、すみませんでしたっ!」

くんっ、と腰から上を折り、落ちてくる髪の毛も気にせずにその状態でいた。

しばらく顔は上げられない。

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