交錯白黒
バレたくなかったけれど、いつかはバレるだろうと、予想はしていたし、覚悟もしていた。
だから案外、私は冷静に対応することができたが、1つ疑問がある。
どうして、分かったの?
「どうしてですか」
知成さんは、そっぽを向いて、頬を掻きながらぽつりと言った。
表情は見えない。
「あの……何となく」
「何となく?」
「うん」
「……」
……怪しい。
鈍感でかつせっかちの知成さんが何となくで気付けるはずが無い。
「ふぅ……ん」
敢えて含みをいれた相槌を打ち、何とも言えない雰囲気にさせてから重圧で口を割らせる作戦だ。
多分、知成さんは引っかかってくれる。
「……ごめん、嘘ついた」
……ほらね。
……ほらね?
「本当は遥斗から聞いた」
「遥斗、から?」
予想外の答えに、僅かに目を開いたが、勘の鋭い遥斗ならあり得るかもしれない。
「そうなんだ。遥斗が、天藍ちゃん学校行ってないみたいだから、理由を聞き出すことと、行くように促すよう、言われたんだよ」
「それ、私に話して良かったんですか」
「……あ」
モロに天然が出ていて、呆れるどころか笑ってしまいそうになる。
「あ、だから、その、今言ったけど、学校行っていない理由、教えてくれるかな?」
「別に……繰り返す入退院で勉強が追いつけなくなったから、嫌になっただけです」
私はツン、とそっぽを向いて言い放った。
「え、じゃあ次の退院後は学校行けるじゃん!」
「行きません」
「どうして?」
丸っこくてうるうるした子犬のような甘えた瞳に打ち勝つよう、視界を遮断し、淡々と答えた。
「今になって行くと気まずいです」
「大丈夫だと思うけど」
大丈夫じゃないから行ってないんだよ、と心の中で突っ込む。
この人本当、鈍感。
「え〜〜」
「上目遣いしても行きません」
「したつもりはないよ……って、あーー!!」
……今度は何!!
「この後用事があるの、忘れてたー!ごめん、天藍ちゃん、今日は失礼するね。あ、これ教科書、ありがとう」
知成さんは一気にまくし立て、ドタバタしながら病室を去った。
受け取った紙袋からは、微かに、甘いフローラル系の香水の匂いがしていた。