交錯白黒
目を開くと、真っ白な、天井。
そしてこの清潔な臭い……病院のようだ。
体をおこそうと力を入れると、至るところの筋肉が潰れたように痛んだ。
所々、包帯が巻かれているのが手触りでわかった。
「痛……」
「やっぱそうだよねー。寝てたほうがいいよー」
「うん、そうす……」
……ん!?
「え、ちな、じゃなくて、瑠璃さん!?」
起き上がることができず、ペタンとしたもやし状態でその名を叫ぶ。
「おはよっ」
私が起きれないことを察したのか、顔を私のほうへ下ろして微笑んでくれた。
蛍光灯が、余分な陰りを瑠璃さんに加える。
「き、金髪じゃない……!」
「いや、そこ?」
さらさらの艶のある黒髪を揺らして笑った瑠璃さん。
やはり、私の当初の予想通り黒髪が似合っている。
あの傷んだ金髪で、なぜこんなにも綺麗な黒髪を隠していたのだろう。
「あれカツラだったんだー。びっくりした?」
「はい。黒髪のほうが断然似合ってます」
その言葉を口にしてはっとする。
もちろん、とんでもないことを言ったのだが、それ以上に瑠璃さんの反応が気がかりだ。
目だけに笑みを含み、その奥で傷ついた光が底光りしていた。
「残念だな。金髪は似合ってなかったのかな」
嘘、彼はこんな軽い傷つきかたをしていない。
「いえ、どちらもお似合いですよ」
探り合いの、会話。
気味が悪く、つい表情が硬くなる。
「そ、ありがと」
……やっぱり、あの目が変わらない。
気づかずになにか刃物を刺してしまったのだろうか。
体中にズキズキした痛みが回り、思考が妨げられる。
……私は、どうしてこんなことになっているの?
私は何をしていた……。
途端、空気を切り裂くように吸い、痛みでまともに動かせないはずの体が震えた。
「る、りさん……千稲ちゃんは?」
「え?」
「千稲ちゃんはどうなったの!?」
「天藍ちゃん、落ち着いて」
「落ち着けない!!私は、どうなったのって聞いてるのよ!?」
我儘な子供のように、震えた声で怒鳴り、駄駄をこねた。
「ごめん、僕は知らないんだ」
「天藍ちゃんが出て行った理由も、その千稲って子のことも」
瑠璃さんのくせに、いやに安心する声でそんなことを言う。
「それに今、琥珀がそこで寝ているんだ。もう少し、寝かせてやってくれないか」
何が寝てる、よ、子供じゃないんだから、と言いたいところだったが、さっきの私の態度でそれを言うことはできない。
すみません、と小声で謝った。
「……私の携帯ありますか」
「天藍ちゃんの携帯はないけど、僕のならあるよ。使う?」
「借りてもいいですか」
「いいよ、はい」
瑠璃さんのスマホの重みを感じるとそれを握り、遥斗の番号をダイヤルした。
「もしもし」
電話越しでもわかる、遥斗の沈んだ声に心臓が早鐘を打つ。
……きっと、電話だから、声が変わって聞こえるんだ、絶対そう。
「もしもし、私。瑠璃さんの携帯借りてる」
「ああ、天藍姉……怪我、どうなの」
「怪我なんてどうでもいい。千稲ちゃんは?」
電話口から、静けさが流れた。
静かなのに、うるさい。
心臓の音、息遣いの音、震えの音、そして、思考。
「千稲は、」
「もういない」