交錯白黒
気付いた夏

日常


空気中の水分が肌にまとわりつき、追払えないことにもどかしさを覚える。

今にも落ちてきそうな重いねずみ色をした雲から落ちる雫が、アスファルトにつき、跳ねた。

激動の春が過ぎ、陰湿な梅雨。

とにかく頭が痛い。

千稲ちゃんが亡くなってから、月命日にはお墓参りに行っている。

もちろん、添える花はカキツバタ。

今まで千稲ちゃんに照らして貰っていた分を、私が皆の太陽になって恩返しする。

……なんて、性に合わないから、言わないけれど。
 
太陽にはなれなくても、雨から守る傘にはなれたらいいな、と思っている。

遥斗も段々、本当に少しずつだがダメージから回復してきているように見えた。

それは、母が遥斗を気にかけ始めたから、という理由もあるだろう。

母は自分の業務を無理に引き受けず、なるべく家族との時間を増やすよう、努力しているようだ。

まあ、そのせいで水城さんとは稀に口論になっているのだが。

電話を通じて熱く、また、しょうもない論争が繰り広げられている。

瑠璃さんには、「自殺未遂の罰ね」なんて言われ、ほぼ毎日橘家に行かされる。
 
そして、橘くんと勉強漬け。

本当、低気圧にプラスして頭が重くなる。

そして、あの一件から、橘くんに対する恐怖も少し……和らいだ。 

あの教科書なのだが、何故か私に返された。

橘くんによると、元々私に配布される予定の教科書だったらしく、それを橘くんが私の病院まで届けてくれたとのことだった。

それならそうとはじめから言ってくれればよかったのに。
 
全く、橘くんの生態はわからない。

橘家では少しずつ言葉を交わすようにはなってきたのだが、学校では一切の交わりがないもので、どういうことかわからない。

交わりがないというか、お互いに避けている。

もちろん、あの場所が私達のわだかまりの原因の場所で、それがまだはっきり解決していない、ということもあるのだろう。

更に、橘家で会うたびにもう学校には来るなと牽制してくる。

相変わらずキツイ目で見下ろしながら。

あの眼に睨まれた鋭さだけで、6人くらい殺せそうな勢いである。

今は少し和らいできていてこれなのだから、以前は11人くらいだろうか。
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