交錯白黒
私の病気は、原因不明と言われているが遺伝であるという理由が今強いらしい。
病気、偏頭痛、目付き、性格――。
要らないものばかり遺した、私の産み親。
私の親は研究者だった。
研究にしか目がなく、命を弄んだ私の親。
その血が私に流れていると思うと、寒気が這い上がり、血を抜いてしまいたくなる。
でも……私は、母がそんな人物だとは信じることはできない。
今の母、そして亡き父は私の産み親のことを詳しく話さなかった。
幼い頃、その2人の会話を盗み聞きしてわかったこと、色々な物を盗み見たことから予測したことでしか、彼らの人物像を創り上げられなかった。
だから、この予想は全て的外れかもしれない。
それでも、自分自身の根を、想像したかった。
良くも悪くもお手本になってくれる根を。
だから、周りが皆自分の親が身近にいるのだと思うと、やっぱり少しは羨ましかった。
自分は皆と違うから、それが露になったとき敬遠されるのも、予想していた。
でもそれは次第に攻撃へと形を変えて、私を追い込み始めたのだ。
今となっては何も感じない。
本当に、何も――。
「あ、僕ちょっと急用思い出したから、一旦抜けるね」
雨音の中で、軽い声がくぐもって聞こえた。
正直、瑠璃さんに抜けられると困るが、引き止めようにもきっと途中で逃げられるだろう。
人の話を最後まで聞かないから。
「いってらっしゃいませ」
ため息を交え、強めに韻をふんだ。
トス、と襖を閉める音がすると、一気に空気が重みを持った。
橘くんと二人きりって、息苦しい。
なるべくはやく帰ってきて欲しいところだ。
そこで、私は気づいた。
瑠璃さんが帰ってくるのを待つのではなく、私が帰ればこの重み抜け出せるのではないか、と。
この心臓の激しい脈動、そして全身の熱が落ち着くはずだ。
……よし、それでいこう。
「あ、た、橘くん、私、ちょっと急用があって、帰るから、瑠璃さんによろしく」
途中で声が裏返り焦ったが、橘くんは私の声など聞き流しているかのように涼しげなので、このままお暇させていただこう。
「待てよ」
「わっ」
低く艶やかな声が、不機嫌さを乗せて私の耳を通り過ぎ、次の瞬間右手を引っ張られて転んでしまった。
転んだことはともかく、問題はその後だ。
私が着地した場所が、橘くんの、膝の上、だったのだ。
私は、思考が完全停止状態。
尖った喉仏から一筋水滴が伝って、鎖骨を流れ、どこに焦点を当てればいいのかわからない。
「重ぇ」
「あ、ごめ……」