交錯白黒
これらを照らし合わせ、天藍ちゃんの不調の原因を推理すると、学校でイジメにあっているから、とかか。
琥珀は顔が良いからモテまくっていたし、女の子の嫉妬はえげつないから、もしそうなら、そういう系か。
天藍ちゃんが学校をあれだけ拒否していたのも頷ける、と同時に地獄にぶち込んだ原因が自分にあり、とても申し訳なかった。
と、いうことは、琥珀はそれを利用したのか?
……最低な手口だ、あいつらしくない。
それだけ必死なのか。
それとも何か別の目的があるのか。
まあでも、血のことを言わなかったのは、すごくあいつらしい。
僕がもし詐欺師で琥珀の立場なら、採血したことを言う。
多くの日本人は、それを申し訳なく思って、表面上は恩返し、本質は自己満足のために協力してくれる。
でもそれは、天藍ちゃんに変な気を使わせるかも、と予想して避けたのだろう。
「……から」
天藍ちゃんが話し始め、慌てて襖に強く耳を押し付ける。
「私、協力しないから」
流石天藍ちゃん、といったところだ。
芯が強い。
「タカタさんに何言われようが構わないわ。どうせ誰も助けてはくれないんだし、別に何とも思ってないから」
それに、と一旦言葉を切り、3秒ほどして続けた。
「こんな脅し方、人としてどうかと思う」
そこが、僕も一番の疑問点なのだ。
「そぉかー……」
敢えてYESともNOとも言わず、相手に委ねるような嫌な含みを入れた返事。
……うわぁ。
これ天藍ちゃんにもされた覚えがある。
「……っ私にも協力してくれるなら協力しないこともないわよっ」
「へぇ、乗った。何に協力すればいいんだ?」
「そ、それは……」
まだ決めていない、というのが本心だろう。
見事なテクニックだった。
琥珀の目的は恐らくこれだ。
始めの論点は、『琥珀に協力するか、しないか』。
でもそれをストレートに天藍ちゃんに選ばさせると、NOと答えられることは明々白々。
そこで、論点のすり替えを行った。
今、2人が話し合っている、というか天藍ちゃんの頭の中では『何を協力してもらうか』、即ち『交換条件』を必死に捻りだそうとしているはず。
とんでもない奴だ。
さて、天藍ちゃんは何と答えるのか。
「……て」
声が小さすぎて襖に跳ね返されてしまっている。
天藍ちゃんは、何と言った?