交錯白黒
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「うーん……」
やはりか、と少しはマシになったが、まだまだ殺風景な部屋の中心で考え込む。
部屋にはアルバムらしきものはなく、写真自体も一枚しかなかった。
となると、あるとするのならば、母、もしくは遥斗の手元。
母の部屋へは見つからないよう侵入するとして、遥斗はそうもいかない。
この時間なら遥斗は部屋の中にいる。
自分の幼いときの写真を見てみたくなった、とでも言って入れてもらえばいいだろう。
両手で持っていた写真を窓際の花瓶の隣に立て掛け直し、目尻を人差し指で擦った。
遥斗の部屋のドアを開けてから、声をかける。
「遥斗」
小さく頼りなげな背中が一度震え、いつもは丸い瞳が、くっ、と細くなった。
「天藍姉かよ……。ノックしろって」
「ごめん。遥斗、よくわからない写真とか持って無い?」
「はぁ?」
少々大げさな気もするくらいの呆れ声で、細かった瞳はいつものように膨らんだ。
「言い方変える。10才くらいの私が写ってる写真とか」
「そんなの持ってねーと思うけど……」
首を捻りながらも席を立ち、アルバムを開いてくれる。
後ろから覗いてみると、その数は少なく、赤ん坊の頃の写真と学校で撮ったようなものがほとんどである。
「あ、これ……でも、女の子は天藍姉だよな?この男の子、誰?」
差し出された写真には遥斗はおらず、私らしき女の子と、男の子。
どちらも7〜8才くらいだ。
だが、それは意図的に撮られたものではなく……いや、意図的には撮られているのだが、被写体の合意がなく撮られているような写真であった。
私と、男の子が何か言い争いをしているようにも見えた。
「ほんとだ、私ね、それ」
「何かこれ、隠し撮りされたっぽいけど、大丈夫?」
「ん、まあ、大丈夫。ありがと。これもらっていい?」
「どーぞ」
この男の子……。
ある確信が脳髄から全身を駆け抜け、しばらく電気が流れたように体が痺れていた。
次は母の部屋だ、と張り切ってドアを押す。
でも、ガタッと大きな音がなるだけで、隙間も開かない。
……まさか、鍵?
この前侵入したときはあっさり入れていたのに。
しばらく思考を回し、ピッキングでもしようかと思ったが、初挑戦ならば痕跡も残ってしまうだろう。