交錯白黒
最終的には、母の職場に乗り込むことにし、早速自転車に乗って来てみた。
かっぱを着ているとはいえ、やはりぐしょ濡れである。
私の体に反応し、開いた自動ドアから漏れた冷たい気体が熱された頬に心地よく、湿った頬をねっとりと冷やした。
強めの消毒役の臭いが、白い懐かしさを感じさせる。
次入院するのは、いつなのだろう、屍として運ばれるときか、などと縁起でもないことを考えながら院長室にたどり着く。
しかし、ここに来たところで、職務中で母はおろか、誰もいない可能性がある。
ノックをしようと手を伸ばしたそのとき、丁度ドアが開いて、母か水城さんだろう、と喜んだ。
「……!」
だが、出てきたのは、背が高く、肩幅の拾い、所謂ガタイのよい男性である。
目尻や頬の辺りのシワが目立つことから年齢は、40代後半〜50代前半くらいだろうか。
その皮膚の状態に対し、多少白髪は混ざっているものの髪は黒く、印象的な艶があった。
だが、一番印象的なのは……つり上がった目。
見る者全てを射竦め、威圧で押し潰すような、そんな、冷徹な瞳だ。
その瞳に囚われ、どくどくと心臓が脈打つが、指先を震わせることさえ許されないような圧倒的な威厳がある。
……なぜ、この人は私の前から離れない。
その男性は私を上から見下し、ぴくりとも動かない。
作り物のような光のない瞳は、くたびれて濁っているように見えた。
「ここは院長室だが。用があるならカウンターへ」
喉の奥でビー玉がつっかえてゴロゴロと音を鳴らしているような聞き心地の悪い声。
「……母に用があってきました。あなたこそ、なんで院長室に入れているんですか」
「母……」
その人はピクリと瞼を震わすと「失礼した」と言ってすんなり去っていった。
横を通りすぎるとき、微かにジャスミンの匂いがした。
緊張が解け、肌に服が張り付いていることから汗をかいたのだと認識する。
……何なんだあの人。
怪訝に思いながら、今度こそドアを叩いた。
「お母さん?入ってもいい?」
「どうぞー」
その返事の声は作り物ではない、純粋な明るさで響いた。