密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
「いいところに帰ってきた。雛、配達頼む」
ふたりでカウンターに近づいていくと、兄が煌人用のオレンジジュースをコップに注ぎながら言った。
「間山のところ?」
「ああ。原稿に煮詰まってるらしい。雛のコーヒーでひと息つきたいって」
「わかった。すぐやるね」
間山というのはこの店のお得意様で、私の高校の同級生。職業は小説家だ。
学生時代は読書のためによくこの店に通ってくれていた彼だが、今では来店の機会は減り、執筆のお供にとコーヒーの配達をしばしば頼まれる。彼のアパートは近所なので、楽なお使いだ。
私はこの店であまりオーダーされないブレンドを嬉々として淹れ小さなポットに移し、紙カップ、シュガー、ミルクとともに保温バッグに入れた。
「じゃ、煌人。誠おじさんと一緒に留守番よろしくね」
「はーい。行ってらっしゃい」
息子のかわいい声に送り出され、急ぎ足でドアを出たそのとき。ちょうど店に入ろうとしていた男性に少し肩がぶつかってしまい、私は慌てて頭を下げた。